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カーボンナノチューブ-ナノデバイスへの挑戦
/化学同人


カーボンナノチューブの基礎
/コロナ社


究極のシンメトリー フラーレン発見物語
/白揚社


Carbon Nanotubes and Related Structures: New Materials for the Twenty-First Century
/ Cambridge Unv. Pr.


Physical Properties of Carbon Nanotubes
/ World Scientific Pub. Co.


Carbon Nanotubes: Synthesis, Structure, Properties, and Applications
/ Springer Verlag


     最終更新日:2003/1/27
 

  
イントロダクション
発見の歴史
導電性・量子的性質
その他の性質
成長メカニズム
生成法
加工・操作
応用例
その1 電界放出ディスプレイ(FED)
その2 走査プローブ顕微鏡の探針
その3 分子エレクトロニクスへの利用
リンク集

 
カーボンナノチューブ
 − 応用3:分子エレクトロニクスへの利用


シリコンにかわる可能性を秘めたカーボンナノチューブ

 パソコンや携帯電話に使われている半導体回路のほとんどはシリコンを加工して製造されている。半導体加工は微細化により、消費エネルギーや製造コストの低減、動作速度の向上といったメリットを得ることができる。このため、微細加工は半導体産業の鍵を握る技術の一つとなっている。現在、工業的に実現している最小加工寸法は、2002年のはじめの時点で90nm(0.09μm)程度である。この技術が、あの有名なムーアの法則を推し進める重要な原動力となっているのだが、今の方法のままでは、微小化にいずれ限界がやってくることは間違いない。未だ納得のいく予測は出ていないが、50nm以下になるとかなり難しいと考えられる。

 ところが、カーボンナノチューブ(CNT)は名前の通り、直径がわずか数nmしかない。しかも、ピッチによって金属にも半導体にもなりうる。さらに現在のトップダウンの技術で加工した場合よりも、はるかに均質な材料を得ることができる。単純に見積もっても、CNTから電子回路を組み立てると現在の半導体回路の1000倍以上も高性能になると考えられている。


これまでの成果

 以前から、CNT(とくに単層のもの)を電子回路に利用する試みは、多くの科学者や研究者によって行われてきた。では現時点で、CNTを使った電子素子・回路はどの程度進んでいるのだろう?

 すでに「FET(電界効果型トランジスタ,field Effect Transistor)」のチャンネルなどのコンピュータ素子に、CNTが利用できることは証明されている。現在のスタンダードなFETは、「MOS FET(Metal-Oxide-Silicon)」というタイプだが、これに対してCNTを用いたFETは「CNT FET」と呼ばれている。(トランジスタの基本的な構造については「トランジスタ」のページを参照。)

 現在では、そこからもう少し研究が進んでおり、いくつかのチームがCNTを使って、NOT、NORなどの簡単な論理ゲートを組み立てることに成功している。

 Researchers develop nanotube SRAM - EETIMES(2001)

 また、CNT特有の電気輸送量の高さを利用し、現在のMOS FETよりもパフォーマンスの高いCNT FETが作製されたとIBMが報告している。

 IBM Creates World's Highest Performing Nanotube Transistors - IBM(プレスリリース2002)

 このように次から次へと新しい成果が報告されているため、CNTがシリコンにかわる日も近いような気がするかもしれない。しかし、現実はそれほど簡単ではない。CNTが電子回路部品に利用されるようになるのは早くても10年後、しかも、始めのうちはシリコンとのハイブリッド的なものになると考えられている。

 では、いったいCNTを電子回路に積極的に利用していくためにはどのような課題があるのだろう。重要な課題を最近の研究成果と交えていくつか紹介しよう。


現実的な選択・加工方法

 CNTには金属のものや半導体のものがあるが、電子回路部品に利用する場合は、それらを区別する必要がある。ところがCNTは直径やピッチのわずかな違いによって導電性が変化するので、そう簡単に金属と半導体のものを区別することはできない。

 例えば、SPM(走査プローブ顕微鏡)を使って一つ一つ導電性をチェックすれば区別することは可能だが、時間とコストばかりかかって現実的ではない。こういった問題に対して、まだまだ少ないものの、いくつかの方法が提案されている。

 例えば、IBMの研究チームが提案した「選択的破壊」の方法なら、比較的容易な操作で金属と半導体のCNTを区別することができる。(「CNTの加工・操作」のページで詳しく紹介している。)

 Selective breakdown of a multi-walled carbon nanotube and the building of nanotube transistors - IBM(プレスリリース2001)

 また、同研究チームは、普段はp型半導体であるCNTを、真空中で加熱するという単純な方法でn型にすることを実証している。電子線リソグラフィーという特殊な半導体加工技術を利用すれば、CNTの特定の部分だけをn型半導体にすることも示している(下図参照)。この方法で、2001年にIBMの研究チームはCNTでCMOS型NOTゲートを作っている。

 IBM Researchers Build World's First Single-Molecule Computer Circuit - IBM(プレスリリース2001)

 1本のCNTを金電極にクロスして配置する。次にレジスト層(PMMA)をつくり、電子線リソグラフィーで左図のように窓をつくる。Kaを含むガスをPMMAの窓から吹き込んで、その部分だけをn型のCNTに変化させる。レジスト層を取り除き、p型、n型からなるNOTゲートができあがる。(次を参考に作成。[1]V. Derycke, R. Martel, J. Appenzeller, and Ph. Avouris,"Carbon Nanotube Inter- and Intramolecular Logic Gates",NanoLetters(2001).

 CNTが電子回路部品に利用されるようになるには、今後ともかなり大きなブレイクスルーが必要とされるだろうが、トップダウン的なものではなくて、「自己組織化」や選択破壊などのボトムアップ的なアプローチが重要となることは言うまでもない。


I/O問題(Input/Output)

 CNTの直径は数nmであるのに対し、現在の加工寸法は、電子線リソグラフィーなどの手間のかかる方法で十数nm程度を実現するのがやっとだ。このギャップは、CNTの大きなアドバンテージとなるわけだが、CNTを外の電極などとつなぐときには大きな問題となる。というのも、10〜100倍ちかい電極にナノチューブを橋懸けしてデバイスをつくるとなると、結局CNTのサイズをいかすことができない。

 それに何千というCNT FETを並べるには、個々のCNTのチャンネルを制御するゲート電極が必要だが、それを加工する方法も、ここのCNT FETをアドレス化する方法についても、明確な見通しは立っていない。

 このように、バルクスケールの外の世界から、CNTのようなナノスケールの世界へ、個々を区別しながら入出力するような方法がないのだ。


電子素子の集積化

 コンピュータが20世紀の中ほどから目覚ましい発展を遂げた理由を考えたとき、ある二つのブレイクスルーを挙げずにはいられない。

 一つ目のブレイクスルーは、ベル研のショックレーらがトランジスタをはじめて発明したことだ。しかし、このときに発明されたトランジスタをそのまま使っても、コンピューターはこれほど進化しなかっただろう。トランジスタは、もう一つ大きなブレイクスルーを待たねばならなかったのだ。

 その二つ目のブレイクスルーというのが、ウエハーと呼ばれる基板に平面状に掘り込まれた「プレーナー型トランジスタ」の発明だ。これではじめて、ムーアの法則に代表されるような、トランジスタの集積化の基礎ができあがったのだ。(詳しくは「トランジスタ/トランジスタ誕生から集積回路への利用」のページを参照。)


 今のCNT FETの事情は、1940年代末にベル研ではじめて点接触型のトランジスタが発明されたころの事情と同じようなものなのだろう。だとすれば、CNT FETが成功するためには、やはり集積化の現実的な方法が必要となる。

 シリコンのトランジスタはリソグラフィーをはじめとするトップダウン的な加工プロセスによって集積化が実現されたが、CNTのトランジスタは自己組織化などのボトムアップ的な方法が望ましいと考えられている。

 例えば、2002年に富士通の研究チームが発表した、プラズマCVDでMOS FET電極となるシリサイド上に配向のそろったMWCNTを成長させたような方法がよいのかもしれない。(「CNTの加工・操作」のページで詳しく紹介している。)
MOSFETの電極となるシリサイド層上への多層カーボンナノチューブの垂直成長と直径制御に成功 - 富士通研究所(プレスリリース,2002)

 他にも産総研がフォトリソグラフィー技術とCNTの自己集合を誘発する鉄触媒を組み合わせて、トランジスタの集積化を試みている。
カーボンナノチューブを用いた量子効果ナノデバイスの集積化技術を開発 - 産総研(プレスリリース2002)

 これまで挙げた課題は、なにもCNTだけに限った話ではない。分子レベルから集積回路をつくろうとする分子コンピュータ全般に当てはまる普遍的な課題といえる。(詳しくは「分子エレクトロニクス」を参照。)



その2 走査プローブ顕微鏡の探針 リンク集