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カーボンナノチューブ-ナノデバイスへの挑戦
/化学同人


カーボンナノチューブの基礎
/コロナ社


究極のシンメトリー フラーレン発見物語
/白揚社


Carbon Nanotubes and Related Structures: New Materials for the Twenty-First Century
/ Cambridge Unv. Pr.


Physical Properties of Carbon Nanotubes
/ World Scientific Pub. Co.


Carbon Nanotubes: Synthesis, Structure, Properties, and Applications
/ Springer Verlag



 

  
イントロダクション
発見の歴史
導電性・量子的性質
その他の性質
成長メカニズム
生成法
加工・操作
応用例
その1 電界放出ディスプレイ(FED)
その2 走査プローブ顕微鏡の探針
その3 分子エレクトロニクスへの利用
リンク集

 
カーボンナノチューブ
 - ナノチューブの歴史


 カーボンナノチューブの研究開発と言えば、新しい生成法の確立とともに二人三脚で進んできた感じがある。カーボンナノチューブの新しい生成法が考案されたあとには、嵐のように新しい発見が続くといった具合だった。下に挙げた年表は、ダイナミックなCNTの歴史のなかで、ごくわずかな出来事だけを取り上げたものだが、そのことは十分に感じられるのではないだろうか。

 そこで、このページでは、CNTの歴史に関して、生成法を中心に据えてみてみよう。

年号 出来事
1991 カーボンナノチューブのお目見え
NEC飯島がCNT(多層、MWCNT)を発見。[1]
 92 CNTがはじめて大量生産
当時のNECのエブセン(T.Ebbesen)とアジャヤン(P.M.Ajayan)が、アーク放電でCNTを大量に生成するのに成功。[2]
 92 CNTは金属か?半導体か?
米国海軍研究所、NEC、マサチューセッツ工科大学の3つの研究チームが独立してCNTの導電性について理論から予言。[3-5]
 93 単層カーボンナノチューブ(SWCNT)が発見される
飯島、過去の実験資料にSWCNTが含まれていることを発見、SWNTについて論文に発表[6]。上と独立してIBMの研究チームが同時にSWNTを発見。[7]
 96 SWCNTが大量に生成、CNTは新たな段階へ
R.スモーリーらライス大研究チーム、SWCNTのレーザー蒸発により、選択的にCNTを大量生成する方法を発見[8]
 97 SWCNTの量子伝導が明らかに
望みのSWCNTが生産できるようになって、これまで難しかったCNTの量子伝導が実験で示される。今後、SWCNTを量子細線として用いた実験が盛んに。[9]
 98 CNT配向膜の生成
ボストン大学のRenらは、Niを蒸着したガラス基板上で炭化水素を分解すると、配向のそろったCNTが生成することを発見。これ以降、CNTの大量生産が産業化されて行く。[10]


「C60はすでに見えていた」からナノチューブの発見へ

 ライス大の研究チームがフラーレンについての論文を発表した85年ごろ、NEC研究チームに所属していた飯島は、80年に写したある電子顕微鏡写真を思い出した。飯島はそれまで一貫して電子顕微鏡を使った研究を行っていた。その写真とは、タマネギ状に成長した球面状グラファイトの中心に黒い粒子があるというものだった。

 フラーレンが話題になった85年の時点からその写真を見れば、確かにその粒子はフラーレンかも知れないと思いつくこともできるが、80年当時の精度の悪い顕微鏡写真を見ただけでは、それがサッカーボール型のものだと予測するのは容易なことではなかった。(フラーレンが話題になった後、飯島教授はこのことについて「C60はすでに見えていた」という論文を発表している。)
ともかく、ここから飯島教授の独自なフラーレン研究がスタートする。

 フラーレンがセンセーショナルに騒がれた80年代後半、当然ながら飯島教授の他にも、数千人規模の科学者がフラーレンの構造や生成法を研究していた。その中で飯島教授は、例のタマネギ構造を電子顕微鏡で調べることで、その中心のフラーレンがどのように成長するのかという、独自の視点で研究を行っていた。

 そこでアーク放電によってタマネギ構造を探していた。アーク放電では、ガラス容器の内壁についた煤にフラーレンが多量に含まれていることがよく知られている。(フラーレン/フラーレン発見のドラマを参考に。)

 ここで、多くの研究者ならフラーレンが多量に取れる内壁の煤に注目するところだが、飯島教授の探していたものは、あくまでフラーレンではなくタマネギ構造だった。一連の研究で、内壁の煤にはタマネギ構造が含まれていないことが分かると、他の研究者が注目しなかった陰極の炭素棒に堆積した煤に注目した。そしてそこで見つけたもの、それがカーボンナノチューブだったのだ。それは1991年のことだった[1]。

 独自の視点からフラーレン研究をはじめた飯島教授によって、はじめてカーボンナノチューブは発見されたのだ。このような決して偶然だけではない大発見に、当時は「セレンディピティ(serendipity)」という言葉がもてはやされていた。



単層ナノチューブ生成法の(再)発見へ

 91年に飯島教授の発見したCNTは、いくつかのチューブが入れ子状になった「
多層カーボンナノチュー(MWCNT:MultiWalled Carbon NanoTube)」だった。しかし理論計算によると、伝導性などで面白い性質を持ったのは、直径が2nm以下の「単層ナノチューブ(SWCNT)」だった。そのため、どうやってCNTの成長をコントロールしてSWCNTをつくろうかということが当時の課題になっていた。

 ところが意外にも、飯島教授らが過去に行った、フラーレンやCNTとは別の目的の実験で、きれいなSWCNTができあがっていたことが、偶然にも93年に(再)発見されたのだ。[6]その実験というのは、鉄やニッケル、コバルトをグラファイトでコーティングしたものをアーク放電するというものだった。つまり、グラファイトを鉄やニッケルコバルト触媒存在下
でアーク放電すると、SWCNTが生成することがわかった。順序と目的が逆にこそなったものの、MWCNTやフラーレンが発見される以前に、SWCNTは人工的に作られていたことになる。ただ、93年になるまで発見されなかっただけだ。

 なお、飯島教授らとは別に、IBMアルマーデン研究所のDonald Bethuneらのチームがまったく同じ方法でSWCNTの生成法を発見している(こちらは、金属にグラファイトをコーティングしたものではなく、グラファイトに金属触媒を加えたというものだった)。[7]

 それにしても、今になって言えることだが、フラーレン、CNTにまつわる発見は、紙一重の偶然が至るところで見うけられるのには驚かされてしまう。



SWNTの大量生産で、カーボンナノチューブは新時代に

 96年にライス大学のスモーリーらの研究チームがSWCNTの効率のよい生成法を発見し、CNTの研究は新しい展開を見せるようになった。[8]

 スモーリーたちの考えた生成法は、はじめてフラーレンを生成した「
レーザー蒸発」と似たものだった。(解体真書シリーズ「フラーレン/フラーレン発見のドラマ」を参考に。)

 ただし当時のと大きく違っているのは、上で紹介した方法と同じように、コバルトニッケル触媒を用いていることだ。これにより何十、百本ものナノチューブが束になって直径が100nm程度、長さは数百μmにもなるロープ状のものが生成するようになった。

 しかも驚くべきことに、このロープ状のものの70-90%程度はすべてSWCNTで、それぞれのSWCNTはだいたい直径がそろっているのだ。SWCNTを大量に生成することも重要だが、直系の大きさの整った精度のよいものをそろえることも、研究や将来の応用には欠かせない。大量に精度のよいSWCNTが得られるようになって、体系的にCNTの研究が行われるようになった。

 これ以降、CNTの最も興味深い性質の一つである量子伝導が世界中で研究されていった。量子伝導はメゾスコピック系に特有の現象で、クーロンブロッケイドやバリスティック伝導など、バルクでは考えられないような性質が現れてくる。[9]

 さらに、99年には、ボストン大のRenらが、Niを蒸着したガラス基板上で炭化水素を分解すると、配向のそろったCNTが生成することがわかった。[10]このことは、CNTを単に大量生産するだけでなく、電界効果ディスプレイをはじめとするデバイスを研究開発するときにも、重要な操作加工の手段として注目されている。




Source

[1]"Helical microtubules of graphitic carbon", S. Iijima, Nature 354, 56 (1991)

[2]"Large-scale synthesis of carbon nanotubes", T W Ebbesen and P M Ajayan Nature, vol.358, p220 (1992)

[3]"Are fullerene tubules metallic?", J. W. Mintmire, B. I. Dunlap and C. T. White, Phys. Rev. Lett. 68, 631 (1992)

[4]"New one-dimensional conductors - graphitic microtubules", N. Hamada, S. Sawada and A. Oshiyama, Phys. Rev. Lett. 68, 1579 (1992)

[5]"Electronic structure of graphene tubules based on C60", R. Saito, M. Fujita, G. Dresselhaus and M. S. Dresselhaus, Phys. Rev. B 46, 1804 (1992)

[6]"Single-shell carbon nanotubes of 1-nm diameter", S Iijima and T Ichihashi Nature, 363, 603 (1993)

[7] "Cobalt-catalysed growth of carbon nanotubes with single-atomic-layer walls", D S Bethune, C H Kiang, M S DeVries, G Gorman, R Savoy and R Beyers, Nature, 363, 605 (1993)

[8]"Crystalline Ropes of Metallic Carbon Nanotubes", Andreas Thess, Roland Lee, Pavel Nikolaev, Hongjie Dai, Pierre Petit, Jerome Robert, Chunhui Xu, Young Hee Lee, Seong Gon Kim, Andrew G. Rinzler, Daniel T. Colbert, Gustavo Scuseria, David Tomanek, John E. Fischer, Richard E. Smalley Science,273,483(1996)

[9]Individual single-wall carbon nanotubes as quantum wires", SJ Tans, M H Devoret, H Dai, A Thess, R E Smalley, L J Geerligs and C Dekker, Nature, 386, 474 (1997)

[10]"Synthesis of large arrays of well-aligned carbon nanotubes on glass", Z F Ren et al., Science, 282, 1105 (1998)




イントロダクション 導電性・量子的性質