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はじめてのナノプローブ技術
/工業調査会


走査型プローブ顕微鏡―基礎と未来予測
/丸善


ナノ・フォトニクス―近接場光で光技術のデッドロックを乗り越える
/米田出版


ナノテクノロジーの最前線 アトムテクノロジーへの挑戦〈1〉ナノテクで原子分子を見る触る操る
/日経BP社



 

  
イントロダクション
歴史
走査トンネル顕微鏡,STM
原子間力顕微鏡,AFM
近接場光学顕微鏡,NSOM
SPMによる観察・評価
SPMによる微細加工
リンク集

 
■走査プローブ顕微鏡,SPM(Scanning Probe Microscope)
 − SPMによる観察・評価

 では、高い分解能を兼ね備えたプローブ顕微鏡には、どのような応用例があるだろうか?プローブ顕微鏡には、顕微鏡として対象を「見る」という機能に加えて、対象を「加工する」機能もあるが、このページではまず「見る」ということについて、代表的な具体例を取り上げてみよう。



半導体デバイスの評価

 近年、SPMが急速に発展してきた背景には、半導体産業からの要請によるところが大きいことを見逃すことはできない。

 半導体デバイスの高性能化には、トランジスタなどの素子をいかにたくさんチップに詰め込めるかが重要となってくる。そのためには、さらなる微細加工技術が求められると同時に、その後で行われるLSIウエハの計測に関しても微細化への適応が必要となってくる。

 従来のLSIウエハの寸法測定には、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)がつかわれてきたが、その水平分解能は一般的なもので10nm程度と、現在の最小加工寸法が0.1μmを切り始めた現在ではSEMの限界が近づきつつある。しかも薄膜化の技術も進歩しつつあるなか(例えばMOSデバイスのゲート酸化膜は数nm程度の厚さである)、SEMの垂直分解能は極端に低く、薄膜の凹凸の観察が困難だという問題もある。そのため、高い垂直分解能をもったSPMの利用が期待されている。(MOSデバイスの一例としては、「トランジスタ/MOS FET」を参照)

 また、導電性不純物を加えるドーピング処理も、微細化に伴い、今以上に精度の向上が必要となる。というのも、回路の素子サイズが大きい場合には、ドーパント原子/Si原子の比は統計的に扱って問題ないが、微小化に伴い素子を構成するSi原子の数が少なくなると、ドーパント原子の分布状況などでデバイスの電気的性質が大きく左右されてしまうからだ。そのためにも、SPMによるドーパント分布評価が期待されている。

 ただし、SPMの半導体デバイス評価には問題がないわけではない。SPMは局所的な高分解能を誇っているが、面積の大きい領域を観察・評価するのには莫大な時間がかかってしまう。これはでは、製造にコストや時間がかかりすぎて現実的ではない。そのため、何本かのプローブで同時に走査する多針走査や、これまでの技術との融合などが試みられている。



量子ドットなどの量子構造の評価

 現在の半導体デバイスの様々な課題を乗り越えるべく、メゾスコピック領域でのみあらわれる現象を利用したデバイスの研究開発が世界中で行われている。例えば、量子ドットを用いた単(一)電子トランジスタなどが挙げられる。(「量子ドット/単一電子トランジスタ」を参照。)

 こういったデバイスを実現するためには、量子ドットや量子細線などの個々の量子構造について、電気的・光学的性質を評価する手段が必要となる。しかし従来の方法では、空間分解能は100nm程度と、量子ドットの10nm程度の大きさには及ばず、個々の量子構造を評価することは難しかった。そのため、この量子構造の評価でも、SPMの応用が期待されている。

 量子構造の評価には、構造内に閉じ込められた電子-正孔の再結合発光によるルミネッセンスを測定する方法が有効であることから、STMを応用したトンネル電子ルミネッセンス顕微鏡(TLM)が注目されている。

 なお、量子構造とは異なるが、このTLMは有機ELディスプレイなどの材料評価にも応用できると考えられている。



生体分子の観察

 現在の分子生物学的な研究は、光学顕微鏡の分解能でカバーできるような領域にはなくて、より高い分解能が得られる電子顕微鏡が利用されている。ところが電子顕微鏡による観察は、真空中で行なわなくてはならなかったり、電子を照射で生体分子を破壊してしまったりと、生きたままの生体分子を観測することができない。

 そのためプローブ顕微鏡、その中でもとくに原子間力顕微鏡(AFM)と近接場光学顕微鏡(NSOM)が、この分野に利用されおり、今後も利用の範囲が広がっていくと思われる。

 このおかげで、抗原抗体反応においてタンパク質などがどのように動き、結合を変化させているのか観察できるようになるだろう。また、生きたままで、その場(in situ)観察が可能になれば、筋肉の収縮に関わっているミオシンの動きや力の発生、さらには蛍光ラベルしたATP分子の輸送の過程も追跡できるようになるだろう。



近接場光学顕微鏡,NSOM SPMによる微細加工