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はじめてのナノプローブ技術
/工業調査会


走査型プローブ顕微鏡―基礎と未来予測
/丸善


ナノ・フォトニクス―近接場光で光技術のデッドロックを乗り越える
/米田出版


ナノテクノロジーの最前線 アトムテクノロジーへの挑戦〈1〉ナノテクで原子分子を見る触る操る
/日経BP社



 

  
イントロダクション
歴史
走査トンネル顕微鏡,STM
原子間力顕微鏡,AFM
近接場光学顕微鏡,NSOM
SPMによる観察・評価
SPMによる微細加工
リンク集

 
■走査プローブ顕微鏡,SPM(Scanning Probe Microscope)
 - spmによる微細加工


 現在の半導体デバイス加工プロセスで、微細加工の最も重要な役割を果たしているのは、フォトリソグラフィー過程と薄膜形成過程だろう。一般に、薄膜を形成したのちに、フォトリソグラフィーによって任意のパターンを削り込むといった感じだ。(具体的には解体真書シリーズ「ICチップができるまで」を参照)

 集光レンズの改良が行なわれてはいるが、この方法では光の波長に加工寸法が制限されてしまう。現在は、可視光ではなく、もっと波長の短い紫外(UV)、深紫外(DUV)、極紫外(EUV)などが使われているが、やはり、シングルナノメートルの加工寸法を得ることは不可能である。

 そこで考え出されたのが、プローブ顕微鏡を用いた微細加工である。この方法は、理屈の上では原子一つ一つを動かすこともできる。1990年に、原子一つ一つを動かしてIBMという文字が書かれた時には、ついに人類が原子を操ることができるようになったということで一般のメディアにも大きく取り上げられた。

 では、spmによる微細加工で何が可能になるのか、また現実的な応用までにはどのような課題があるのかも考えてみよう。



STMによる微細加工

 BinnigらがSTMを発明して以来、すぐにいくつかの研究チームが、STMのプローブに加える電圧を調整することで、原子をプローブに付着させたり離したりすることできると考えていた。90年にはIBMのEiglerらがSTMを用いて、Xe原子でNi表面に社名を書き込んだ。

 「原子」、「IBM」などのSTM画像 - STM Image Gallery
 http://www.almaden.ibm.com/vis/stm/atomo.html

 STMで原子一つ一つが操作できるようになったということは、単に好きな構造を作れるということだけを意味するのではない。原子レベルでの操作が可能になれば、量子閉じ込め効果により、まったく新しい機能をもった材料を創出することも可能になる。それまでにも分子線エピタキシー技術を使って、半導体超格子をつくり新しい機能を持った材料が作られていたが、この場合は電子を一次元的に閉じ込めているだけだった。ところが、STMを使えば三次元的に電子を閉じ込めることが可能となり、量子ドットをはじめとする多様な量子構造を創出することができる。

 そのなかで、最も有名な例は、Eiglerのチームによって作成された「量子囲い(quantum corral)」だろう。これは、Fe原子をCu表面に円状に配置し、電子を閉じ込めたというものだ。そのため、STM画像では電子の定在波を見ることができる。

 量子囲いのSTM画像 - STM Image Gallery(IBM)
 http://www.almaden.ibm.com/vis/stm/corral.html
 
 このように、フォトリソグラフィーでは難しい量子構造の創出に、STMによる微細加工が期待されている。
 


NSOMによる微細加工

 近接場光は第二の球によって散乱され、近接場光の空間的分布は破壊される。この破壊性の延長として、さらに球の中の双極子の分布の様子が変わるほど強く近接場光を乱してやると、球の一部がへこんだり、構造が変化することも考えられる。この測定に付随する破壊性こそが、NSOM(近接場光学顕微鏡)の微細加工としての原理となっている。

 実際の加工には、ファイバープローブの先端に近接場光を発生させる照明モードが利用され、このプローブを試料に近づけてその表面をへこませたり、構造や組成を変化させている。光の波長に制限されない近接場光ゆえに、従来のフォトリソグラフィー加工では不可能だった10数nmの加工も実現している。



spmによる微細加工の課題

 これらプローブ顕微鏡の微細加工の最小加工寸法は確かに魅力的ではあるが、現実的な利用までにはいくつもの課題が存在している。とくに重要なのは、加工速度の問題だ。

 フォトリソグラフィーはあらかじめパターンを書き込んでおいたマスクに向かってスプレーを吹きかけているようなものに対し、プローブ顕微鏡による微細加工は一筆書きのようなものだ。どちらが書き込む速度が速いか言うまでもないだろう。

 この課題に対し、マイクロマシーン(MEMS;Micro ElectroMechanical System)を組み合わせることで、複数の探針を同時に制御して加工などを行なうことが要求されている。

 現時点では、プローブ顕微鏡による微細加工は、リソグラフィーのマスク修正など、処理件数の少ない分野での利用にとどまっているのが現状ではあるが、いくつか興味深い研究開発も進行している。

 例えば、SPMを使った高密度メモリの実現だ。SPMは原子レベルで制御が可能なことから、それが発明された当時から、原子・分子レベルでのメモリの開発が期待されていた。しかし、アクセス速度などがネックとなり現実的ではないとされていたが、2002年ごろからIBMが本腰を入れてこの研究開発をはじめている(プレスリリース イメージ集 2002)。具体的にはカンチレバーを縦横に32本ずつ、計1024個敷詰めて、数十nm程度の「穴」を空けたり読んだりする、ナノテク版のパンチカードといったところだ。

 すでに幼小期を過ぎたSPMが、さまざまな分野で応用を広げて行くには、こういった企業の研究開発が重要になってくると思われる。



SPMによる観察・評価 リンク集