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はじめてのナノプローブ技術
/工業調査会


走査型プローブ顕微鏡―基礎と未来予測
/丸善


ナノ・フォトニクス―近接場光で光技術のデッドロックを乗り越える
/米田出版


ナノテクノロジーの最前線 アトムテクノロジーへの挑戦〈1〉ナノテクで原子分子を見る触る操る
/日経BP社



 

  
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走査トンネル顕微鏡,STM
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■走査プローブ顕微鏡,SPM(Scanning Probe Microscope)
 - 歴史

「レンズ」を使っていた顕微鏡

 光学顕微鏡と電子顕微鏡とでは、仕組みの細かい部分はずいぶん違うが、対象物を「レンズ」で拡大するといったように、視覚的な仕掛けがなされている点では共通していた。もちろん電子顕微鏡のレンズはガラスではないが、磁気コイルをレンズとして電子線を曲げていることを考えると、やはり光学顕微鏡の仕組みと似ていることがわかる。

 ところが、新しく登場してくるプローブ顕微鏡にはレンズや焦点距離といった視覚的な要素はまったくない。試料を針で掃引することで様子を探るという、まったく新しい発想に基づいたものだったのだ。
しかしここにきて、当然次のような疑問がわいてくる。

 それは、いったいどういう針を使っているのかということだ。直径数Åの原子を観察しようと思えば、少なくともそれより小さい針が必要のように思われる。

 例えば、ビー玉を敷き詰めて、電柱ほどの大きな針で擦ってみたところで、ビー玉がどのように並んでいるか認識できるはずがない。現在のナノテクノロジーがあれば、原子レベルの針をつくることも可能だろうが、このSPMが発明された80年代には、それは遠い夢の技術だったはずだ。


「トンネル効果」を利用した顕微鏡

 しかし結果としては、STMに使われている針は、それほど厳密でなくてもよいということがわかったのだ(もちろん針がシャープなほど解像度がよくなるのは否定できないが)。針全体の形はともかく、試料に対して最も近い原子が1個だけ存在している、ただそれだけで十分だったのだ。

 ナノの世界を調べるにしては、ずいぶんいい加減な話のように聞こえるかもしれませんが、その背景には私たちの日常に馴染みのないような現象が関わっているのだ。


上図:壁が薄い場合。壁のむこう側でも、波が生じていることがわかる。下図:壁が厚い場合。壁のむこう側でも波が生じているが、上図より小さいことがわかる。
 原子レベルで物事を見ようとしたとき、もはやそこは私たちが認識している日常のマクロな世界とかけ離れた世界だということを忘れてはいけない。

 このようなナノの世界は量子力学が支配する世界で、日常では考えられないさまざまな現象が当たり前に起こっている。その最も代表的な現象が「
トンネル効果」で、これがSTMの針のパラドックス秘密なのだ。

 トンネル効果とは、十分なエネルギーのない電子が障壁をすり抜けてしまうという現象だ。

 古典力学の世界では、四方ふさがった壁の中に入れられたボールは、壁を飛び越えるのに十分なエネルギーがなければ、いつまでたっても外には出てきない。ただ壁にぶつかって跳ね返るのを繰り返すだけだ。


 しかし、電子はボールのように、ここ、そこ、あそこといった感じにはっきりと存在しているのではなく、一定の領域にぼんやりと確率的に存在している。その存在確率は障壁があることによってずいぶん下がるが、連続的に変化するので障壁のところで急に0になることはない。(左上図)そのため、電子の存在領域が壁の外側にも広がっている場合もあり、確率こそ低いものの壁の外側でも電子を見つけることができるのだ。このような粒子の染み出しがトンネル効果だ。

 STMの針はこのトンネル効果を利用している。つまり、針を試料の数ナノメートルにまで近づけると、試料と針の間の真空(実際は水中でも固体中でもよい)の障壁をトンネル電流が生じ、それを検出して、固体表面の様子を探っている。針が直接試料に接触しているわけではない。

 このトンネル電流の値(大雑把にいえばトンネルした電子の存在確率)は、障壁の厚さに対して指数関数的に減少する。つまり、トンネル電流は針と試料との距離に非常に敏感だと言うことができる。例えば、距離が1Å離れると、トンネル電流値は1桁程度下がることが知られている。

 つまり試料から1番近い原子にはトンネル電流が生じても、二番目に近い原子にはトンネル電流が生じることはほとんどないというわけだ。これが先ほどのSTMのパラドクスの背後で起こっていることだ。

 これを逆手に利用して、常に一定のトンネル電流が生じるように針の位置を制御できれば、垂直方向の非常に高い分解能が得られるというわけだ。こうして得られたSTMの分解能は、なんと0.005nm(0.05Å)だった。
こうしてSTMの発明者であるビニッヒ、ローラーは1986年にノーベル賞を受賞している。

 その後、STMのようにトンネル電流を検出するのではなく、原子間力を検出する
「原子間力顕微鏡(AFM)」、近接場光を検出する「近接場光学顕微鏡(NSOM(SNOM,NOMとも))」が発明された。以下のページでは、STM、AFM、NSOMの三つについて取り上げる。

顕微鏡名 検出対象となる局所的物理量
走査型トンネル顕微鏡
STM:Scanning Tunneling Microscopy
トンネル電流
原子間力顕微鏡
AFM:Atomic Force Microscopy
分子間力
近接場光学顕微鏡
NSOM:Near-field Scanning Optical Microscopy
近接場光
磁気力顕微鏡
MFM:Magnetic Force Microscopy
磁力
摩擦力顕微鏡
FFM:Friction Force Microscopy
摩擦力
走査型近接場超音波顕微鏡
SNAM:Scanning Near-Field Acoustic Microscopy
超音波
走査型イオン顕微鏡
SICM:Scanning Ion Conductance Microscopy
イオン伝導
           [様々なタイプのプローブ顕微鏡]



イントロダクション 走査トンネル顕微鏡,STM