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量子ドットへの誘い マイクロエレクトロニクスの未来へ
/シュプリンガーフェアラーク東京

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Quantum Dot Devices and Computing/SPIE


Quantum Dot Heterostructures
/John Wiley & Sons



 

  
イントロダクション
量子ドットの基礎
量子ドット作成 - トップダウンとボトムアップのアプローチ
応用1 量子ドットレーザー
応用2 単一電子トランジスタ
応用3 量子セルオートマトンによるコンピューティング
応用4 フォトルミネッセンスを利用したバーコード

リンク集

 
■量子ドット
 − 応用2 単一電子トランジスタ

MOS FETの行く末は?

 現在のICチップに詰め込まれている演算素子で、主流となっているのはMOS電界効果トランジスタ(MOS FET; Metal-Oxide-Silicon field Effect Transistor)である。驚くことに、今のPentiumIVチップにはこのトランジスタが4000万個以上も含まれている。そのため、トランジスタ一つ一つはとても小さく、それを見るためには顕微鏡、しかも光学顕微鏡ではなく電子顕微鏡が必要なほどだ。(MOS FETについては「トランジスタ」を参照。)

 これまでのコンピュータの発展は、チップに詰め込まれるトランジスタの数が増えつづけること、言いかえればトランジスタのサイズを小さくしつづけることで達成されてきた。しかしここに至って、当然素朴な疑問が浮かんでくる。

 それは、トランジスタのサイズが小さくなり、それを構成する原子や分子の数が数千個程度になっても本当にトランジスタとして機能するのかということだ。

 トランジスタの構成パーツであるゲート長が数十nmになるときには、量子的な性質が極端に現れてくるので、もはや今のままのMOS FETでは演算素子としての機能を果たすことは出来ないだろう。

 そこで新たに提案されているのが、「単(一)電子トランジスタ(SET;Single Electron Transistor)」である。量子の世界に特有なトンネル効果などの現象を利用し、電子を一つ一つ制御して様々な演算を行うトランジスタだ。とくにSETを実現するのに、量子ドットが大きな役割を果たすと考えられている。理論的には、今よりはるかに高性能で低消費電力なコンピュータが可能になると考えられている。



単一電子トランジスタの構造・動作原理


量子ドットを用いた単一電子トランジスタの原理

 SETの基本的な構造は、今のMOS FETト共通するところが多い。SETもMOS FET同様に、ソース、ゲート、ドレインの3つのパートからなっていることが分かる。ただし、SETのゲート部分はMOS FETのものと異なっていることに注目しなくてはならない。

 SETのゲート部分は、十数nmの量子ドットが数nmの絶縁膜で挟まれた構造になっている。この量子ドットのことをよく「島」と呼び、また絶縁膜との接合を「トンネル接合」と呼ぶ。

 では、SETの動作原理はどうなっているのだろう。

 一般に、電子が試料AからBへ移動するとき、電子どうしの反発力によって、e^2/2Cだけ静電エネルギーが上昇する。

 このとき、このエネルギー上昇をどう解釈するかということがポイントとなってくる。一般に室温のバルクな試料では系全体のエネルギーが大きいために、この程度のエネルギー上昇は、熱エネルギーの揺らぎでかき消されてしまう。ほとんど無視してしまって構わない。ところが、量子ドットのようなナノサイズの試料では、このエネルギー上昇も決して無視できない。

 SETのゲート電圧もバイアス電圧もかけない状態では、電子には静電エネルギーに打ち勝って量子ドットに移動することが出来るほどのエネルギーがない。ところがバイアス電圧が加えられて、電子が静電エネルギーに打ち勝つことが出来れば、まず電子が一つだけ量子ドットに移動する。

 ところが、二つ目の電子は簡単には量子ドットに移動することは出来ない。それはすでに量子ドットに入っている一つ目の電子との反発力が生じているためだ。電子がブロックされてしまうこの現象をクーロンブロッケイドと呼んでいる。二つ目の電子を移動させるには、ゲート電極を正に印加することで、二つ目の電子が量子ドットに移動しやすいようにしてやらなければならない。

 こうしてゲート電圧とバイアス電圧を操作することで、一つ一つの電子の移動をコントロールすることが出来る。また、量子ドットを用いたSETでは、室温で駆動するものが実証されている。

(SETの原理については解体真書シリーズ「メゾスコピックサイエンス」を参照。)


 なお最近では、クーロンブロッケイドではなく、電子スピンの相関現象である近藤効果を利用したSETの研究も行われている。国内ではNTT物性科学基礎研究所などでこの研究が行われている。

NTT物性科学基礎研究所



SET実現への課題

 量子ドットを用いたSETが提案された当初は、電子を一つ一つコントロールできることから、デジタルに応用できると考えられていた。しかも、電子一つ一つをコントロールするだけなので、ゲート電極に加える電圧の量も小さくてよいと考えられていた。

 ところが、この敏感さが、SETを技術的に作り上げるときに大きな障害となっている。

 というのも、量子ドットは量子閉じ込め効果などにより、量子ドットのサイズによって電子のエネルギー状態が変わってくる。すると、ゲート電極に加えなければならない電圧の値が変わってくる。つまり、量子ドットのサイズが均一でないと、個々のSETによって必要な電圧の値が変わってきてしまうわけだ。これでは、SETを用いて集積回路をつくることはできない。量子ドットの作成の精度が重要になってくる。(これは量子ドットレーザーでも議論した内容である。)

 また、ゲート電圧のわずかな違いによって、敏感に反応してしまうために、どうやってゲート電圧の精度を上げるかも問題になる。



応用1 量子ドットレーザー 応用3 量子セルオートマトンによるコンピューティング