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量子ドットへの誘い マイクロエレクトロニクスの未来へ
/シュプリンガーフェアラーク東京


驚きのマテリアル 超・薄・微 一億人の化学
/大日本図書


メゾスコピック系の物理
/丸善



 

  
イントロダクション
量子ドットの基礎
量子ドット作成 - トップダウンとボトムアップのアプローチ
応用1 量子ドットレーザー
応用2 単一電子トランジスタ
応用3 量子セルオートマトンによるコンピューティング
応用4 フォトルミネッセンスを利用したバーコード

リンク集

 
■量子ドット
 − 量子ドットの基礎

量子ドットに閉じ込められた電子の挙動


電子を二次元的に閉じ込めたのが量子井戸、一次元は量子細線、そして0次元に閉じ込めたのが量子ドットである。

 20世紀前半、量子物理の誕生と共に、それまで波だと考えられていた光は粒子としての性質ももち合わせていることが分かり、その一方で、粒子だと考えられていた電子は波としての性質をもち合わせていることがわかった。これが量子力学で有名な粒子と波動の二重性だ。

 では、量子ドットの内部で電子はどのような挙動を見せるのだろうか?量子ドットの大きさはすべての方向に約10nm程度であり、電子の波長も約10nmだということを考慮すると、電子は量子ドットの中に閉じ込められてしまうことになる。言いかえれば、電子にとっては量子ドットはゼロ次元の世界ということになる。

 このようにナノサイズの半導体に閉じ込められた電子のエネルギーは、バルクスケールの連続的なバンド構造ではなく、離散的なエネルギー準位をとるようになる。また、電子に閉じ込めている壁である量子ドットのサイズが変化することで、電子のエネルギー状態も変化する。一般に量子ドットのサイズが小さくなると、最も低い位置にあるエネルギー準位が上昇し、他のエネルギー準位との差(僞)も大きくなる。このような効果を「量子サイズ効果」と呼んでいる。



「人工原子」としての量子ドット


自然の原子と「人工原子」である量子ドットについて、原子核からの距離とポテンシャルエネルギーの関係を示したモデル図。この図に描かれているエネルギー準位は、複雑な多電子効果を考慮していない。

 量子ドットは原子といくつもの類似点をもっている。原子は正の電荷をもつ原子核の周りを負の電荷をもつ電子がクーロン力によって拘束されて動いている。原子は100種類以上も存在しているが、その多様性は、正電荷の数とそれに拘束されている電子の数が異なるということだけから生じてきている。

 一方、量子ドットの方も、井戸型ポテンシャルの形と、そこに人工的に閉じ込められた電子の数によって、性質の違いが現れてくる。

 とくに、量子ドットに複数の電子が閉じ込められているときは、電子どうしの影響が重要となってくる。つまり、「多電子効果」について考慮することで、量子ドットの性質をより深く知ることができる。例えば、量子ドットに一つの電子を注入した後で、新たに別の電子を注入すると反発力を受ける。そのため、この反発力に打ち勝つようなエネルギーを供給してやならないと、電子を注入することは出来ない。この現象はクーロンブロッケイドなどとして現れる。(クーロンブロッケイドについては、量子ドットの「単一電子トランジスタ」または「メゾスコピックサイエンス」を参照。)



マテリアルサイエンスに提供される幅広い選択肢

 このように量子ドットは量子サイズ効果と多電子効果で、新しい性質をもった材料を創出することが可能となる。バルクスケールの半導体の電子のエネルギー分布は、それぞれの物質によって固有であるのに対し、量子ドットはその大きさを変えることで、エネルギー状態も自由に変化させることが出来るのだ。

 これまでのダイオードレーザーの開発では、自然の限られた材料のなかから選択し、技術者が苦労して高輝度・低消費電力のレーザーを作り出していたのに対し、量子ドットはその材料に幅広い選択肢を提供することになる。このことについては量子井戸レーザーでも詳しく触れている。



イントロダクション 量子ドット作成 - トップダウンとボトムアップのアプローチ