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磁気抵抗ヘッドとスピンバルブヘッド―基礎と応用
/丸善

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マリンソン磁気記録の基礎/丸善


     最終更新日:2002/11/30
 

  
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ハードディスクの課題と今後&リンク集

 
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「熱揺らぎ」の問題とは?

 ハードディスクの面記録密度を上昇させるためには、当然のことながら同じスペースにより多くの情報をつめ込まなくてはならない。現在の面内記録方式においては、情報をより多く詰め込むというのは、その分だけ磁化の向きが変化する箇所(磁化転移点)の数が多くなるということにつながる。(「データ読み書きの原理」のページを参照に。)

 そうすると、主に二つの理由から、記録媒体を構成している最小単位の磁性粒子を微細化する必要がでてくる。

 まず一つ目の理由には磁化点移転のノイズ低減があげられる。磁性粒子ひとつひとつが大きさをもっている限り、記録媒体で磁化方向が変化する境界線は必ずしも滑らかなものではなく、下図のようにギザギザなものとなる。これはノイズの原因となる。このノイズを低減するためには、結晶粒の水平方向のサイズを小さくする必要がある。

 また二つ目の理由には反磁界の低減があげられる。磁化転移点が増えることで、隣接ビットから受ける反磁界の影響も大きなものとなる。これをクリアするためには、媒体膜厚を薄くする、つまり結晶粒の垂直方向のサイズを小さくする必要がある。


高情報密度化にともなって生じる問題。この二つの問題を解決するには、磁性粒子のサイズを小さくすることが必要となる。


 このような理由で、現在の面内記録方式が採用されている限り、面情報密度を高めるためには結晶粒を(水平、垂直方向ともに)微細化せざるを得ない。

 こうして結晶粒の微細化が進むと、「熱揺らぎ」の現象が現れてくる。熱揺らぎというのは、熱エネルギーによって、結晶粒の磁化方向が変化しデータが失われてしまう現象だ。結晶粒の磁化方向を変えるにはそれなりのエネルギーが必要となるが、それは次のようにあらわされる。

   E
p = kuV (ku;異方性エネルギー、V;粒子体積)

 一方、熱エネルギーは、次のようにあらわされる。

   E
t = kbT (kb;ボルツマン定数、T;温度)

 結晶粒の磁化方向が安定に保たれるには、統計的な考慮もいれて、次の条件が満たされている必要がある。

   E
p > 60Et

 結晶粒の大きさと熱揺らぎの問題について。二つのエネルギー的に安定な状態(溝の部分)がそれぞれの磁化方向を示している。磁化方向が変わるためにはエネルギー的な障壁を越えなくてはならないが、結晶粒が小さくなることでその障壁は小さくなり、熱エネルギーによって超えられてしまうようになる。こうして熱エネルギーにより、磁化の向きが変わってしまう。



 とにかく、このことから結晶粒の微細化に伴い、熱揺らぎによって磁化方向を保っておくことが難しくなることが分かるだろう。これが、ハードディスクの限界として技術者やアナリストの間で議論されてきたテーマだ。ただ、4,5年前までは、ハードディスクは平方インチ当たり30ギガビットくらいが限界だといわれていたが、今ではこの限界はクリアされてしまっている。最近の予測では、IBMの研究員らによって150ギガビット/平方インチあたりに深刻な障害があるとされているが、やはり確証はない。



ハードディスクの将来

 ハードディスクの将来について悲観的な予測をする専門家がいる一方で、楽観的な専門家も多くいるのには、それなりの技術的な根拠がある。

 その技術の一つが「垂直記録方式」である。従来の面内記録方式では、粒子の磁化方向をディスク水平方向に記録してきたが、垂直記録方式ではディスクに対して垂直に記録する方法を採用している。垂直記録では、単磁極型記録ヘッドと軟磁性裏打層と呼ばれる媒体の一部を構成する磁性体との強い磁気的な結合を利用している。


垂直記録方式

 垂直に磁化方向が記録される場合は、隣接ビットの反磁界がお互いに強め合うように作用するので、面内記録のときと違って、結晶粒の垂直方向のサイズを小さくする必要はない。したがって、結晶粒の水平方向のサイズを小さくしても、垂直方向を大きくすれば、全体として結晶粒の体積Vは大きくなり、熱揺らぎの影響を小さくすることができる。

 ハードディスクの技術はIBMをはじめとする海外の企業がリードしているが、この垂直方向記録に関しては、日立や富士通など日本の企業が得意としている。日立によると1テラビットの可能性まで視野に入れているようだ。ちなみに日立は2002年の4月の時点で、107ギガビット/平方インチを達成している。

 日立評論 2001年1月号
  http://www.hitachi.co.jp/Sp/TJ/2001/hrnjan01/hrn0110j.htm
 磁気ヘッドの記録磁界をナノメートルスケールで可視化 - 日立(2002/6/24)


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   Avoiding a Data Crunch - Scientific American
   A History of IBM "firsts" in storage technology - IBM
   
Hard Disk Drive Guide - Dux Computer Digest
   The Basics of Magnetic Recording - Read-Rite
   Hard Disk Drives - PC Guide
   superparamagnetism - Webopedia.com
   History of Magnetism, Physics - Trinity College
   Storage Review
  ニュース
   Seagate、垂直記録方式で100Gビット/平方インチを実証 - 日経BizTech(2002/11)




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