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「道具」としての自己組織化
 - 分子認識から超分子構造へ - 自己組織化の活躍


 前のページに登場したホストゲスト化学で、分子認識や分子情報といった概念は分かりました。しかし、これだけでは自ら高度に組み上がっていく自己組織化は起こりません。自己組織化に必要で、先ほどのホストゲスト化学に決定的にかけていたものはなんでしょうか?


 それは、ホストゲストという名前の通り、分子の集合が1:1、もしくは少数の分子に限られていることにあります。クラウンエーテルもカリックスアレーンも、基本的には結合の生じるレセプター部分が内側を向いた構造(エンドレセプター)になっています。

 しかし、このレセプター部分が外側を向いている構造(エキソレセプター)の場合はどうなるでしょうか?先ほどのホストゲストファミリーにはない、二次元的、三次元的な構造の広がりを持つことができます。


 そうなってくると、全体としての構造は、単に分子の個々の性質だけでなく、その分子がどのように配列しているかが重要になってきます。そして、その分子の配列を制御するためには、分子の構造自体に「
自己組織化のためのプログラム」を組み込んでおく必要があります。そのプログラムの要素というのが、今まで見てきた分子相互作用なのです。

 そこで、「分子会合から分子認識へ」のページで挙げたいくつかの結合を通して、具体的にどんな自己組織化が起こるかを見てみることにしましょう。ここでは、水素結合、配位結合、溶液中の分子相互作用から生じる自己組織化ついて取り上げてみることにしましょう。


○水素結合による自己組織化

 自己組織化の中でも最も影響力が強く、重要な役割を果たしているのが水素結合による自己組織化です。生体内では、至るところに水素結合の自己組織化を見ることができます。

 最も有名な例としては、DNAの塩基対のA-T,C-Gという分子認識を可能にしている
水素結合の自己組織化がありますが、これはごく限られた一面に過ぎません。生体内での水素結合の役割は、もっと複雑で高次元で、大きな影響を及ぼすものとなっているのです。


 現在ポストゲノムだということで、「バイオインフォマテクス」が注目され、遺伝子の解析、それからタンパク質の役割が注目されています。

 現時点では、DNAの塩基配列を読み終え、遺伝子の位置をだいたい特定し、いよいよここの遺伝子やそれから翻訳されるタンパク質に関心が移っています。

 しかし、DNAの塩基配列や遺伝子位置を特定できても、そこからタンパク質の機能や構造を理解するには恐ろしいほどの隔たりがあるのです。そうしているのが、タンパク質の水素結合などによる自己組織かなのです。タンパク質の複雑な構造は、主に次の四段階に分けて考えることができます。


タンパク質の四段階構造

一次構造
 DNAから翻訳されたアミノ酸配列。
 アミノ酸どうしの結合は共有結合である。

二次構造
 タンパク質の「
αへリック」、「βシート」構造。
 αへリックスは、ポリペプチド主鎖上のアミド酸素が、C末端側に四つはなれた主鎖上のアミドNHとC=O---H-Nの水素結合をして、らせん状の構造をとっています。βシートは、それぞれのポリペプチド鎖がジグザグに伸びた形をとり、平行または逆平行にならぶ隣接ポリペプチド鎖の主鎖上のポリペプチド部位どうしで水素結合を作り、シート状の構造になっています。他にもターン構造などがあります。

三次構造
 タンパク質の「
折りたたみ(フォールディング)
 二次構造のときの主鎖上の分子による水素結合ではなく、アミノ酸側鎖の分子による水素結合によって、タンパク質が三次元的に折りたたまれた構造になります。水素結合の他にも、酸塩基性側鎖の静電相互作用、疎水性側鎖の疎水性相互作用も折りたたみの重要な要素になっています。

 折りたたみ構造によって生じる種類はタンパク質の兆を越えるほど多様ですが、折りたたみの根本的な要素は、「分子会合から分子認識へ」で紹介した指を折って数えられる程度の種類しかない分子相互作用なのです。

 そして、その分子相互作用によって実際にタンパク質に見られる基本的な折りたたみの種類は1000程度ということがわかっています。この基本的な折りたたみの組み合わせによって、兆を越えるようなタンパク質の多様性が生まれてくるのです。

 分子相互作用という、限られた情報単位から出発し、それが組み合わさって、またさらに組み合わさり、莫大な多様性を生むのはまさに自己組織化の大きな特徴といえます。

四次構造
 三次元構造をとるタンパク質どうしがさらに集合
 四次構造ともなると、水素結合のほか、さまざまな要素が複雑に絡み合ってくるので細かいことは述べませんが、いくつか具体例を挙げておきましょう。

  コラーゲン
  微小管
  ヘモグロビン
  ATPase





○配位結合による自己組織化

 
配位結合はおもに遷移金属とアニオン(陰イオン)との間に生じる比較的強い分子相互作用です。配位結合にかかわる金属の最外殻電子軌道はd軌道なので、他の分子相互作用と異なり、生じる結合に向きが生まれてきます。そのため設計次第では、幾何学的に整った構造を持つ超分子組成体をつくることができます。

 また金属が組成に関わっていることもあり、潜在的に電子、光、時期活性を示し得るため、新しい機能を持った分子エレクトロニクス材料の開発にも応用できます。

 そういった応用のできそうなものを、いくつか具体例を通してみて見ましょう。


 ・分子グリッド


配位子(アニオン)がカニのハサミ(キレート)のように金属イオンをつかんだ構造をしている錯体。図のように、四方向に配位結合の向きをもつAg+イオンのために、配位子は格子状に並ぶはずである。これは情報を保存するための構造や、光通信や電気信号にアドレスづけできるような、刻み込まれたパターンを修復する構造を示し、その形式は電子計算機のハードウェア素子を思い起こさせます。
 


 ・マルチポルフィリン組成体
 植物が光合成を行うとき、光捕集アンテナとしてはたらくクロロフィル配列体はポルフィリンの会合体の例の一つです。ポルフィリンの組成体を作ることで、電子・エネルギー伝達デバイスをつくることが可能だと考えられています。現在、このポルフィリンの電子伝達を利用して、高効率な有機ELディスプレイを開発している企業もあります。ポルフィリンの自己組織化を使った人工光合成デバイスについては、次のページで紹介。

 ・錯体ポリマー
 基本的に液晶は、細長い棒状の分子がファンデールワールス力によって規則性を保っているが、最近は水素結合や配位結合のような比較的強い分子相互作用を利用した「超分子液晶」が研究されています。




○溶液中の分子相互作用による自己組織化 - 分子組成膜

 溶液中で、疎水基・親水基の存在によって、分子レベルで二次元的に配列することがあります。これを利用したのが分子膜で、基本的に簡単な操作でよいにもかかわらず、分子レベルで見てもかなり精度の高い配列、配向をもった分子膜をつくることができます。

 ・LB膜(Langumir-Blodgett)
 水面上に展開した分子膜をガラス基板上などにうつしとり、累積膜をつくることができます。その方法によって、いくつかの種類に分けることができます。分子レベルで組成が制御されているため、高感度の光センサーや光ダイオードのプロトタイプが開発されています。


 ・自己組織化単分子膜(SAM)
 分子膜のなかではやや特殊な例で、金の表面とアルカンチオールのSH基の間で特殊な結合力がはたらき分子膜ができあがります。これも操作が簡単なため、多くの応用例が発表されています。ベル研では、自己組織化単分子膜を使って、トランジスタの作成に成功しています。



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