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燃料電池の技術
/オーム社


トコトンやさしい燃料電池の本 今日からモノ知りシリーズ
/日本工業新聞社


    最終更新日:2003/1/5
 

  
イントロダクション
駆け足でたどる燃料電池の歴史
これだけは知っておきたい基礎知識
料電池の基本構造と分類
水素貯蔵技術
応用例1; 自動車
応用例2;モバイル、分散型発電
リンク集

 
■燃料電池
 - これだけは知っておきたい基礎知識

燃料電池の発電原理

 燃料電池は、酸化しやすい水素などの燃料と大気中に豊富に存在している酸素とを反応させ、そのときに生じる化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する装置である。酸化還元反応による発電過程を下のアニメーションでモデル的に説明している。

燃料電池の発電原理

 なおアニメーションにもあるように、水素が燃料として使用された場合は、燃料電池の発電によって発生するのは水だけである。



燃料電池の起電力

 セル内の各電極では、次のような化学反応が起こっている。基本的には水の電気分解と反対のことが起こっていると考えてもらえばよい。
アノード
  H2 → 2H+ + 2e- -(1)
カソード
  1/2O2 + 2H+ + 2e- → H2O -(2)
燃料電池全体
  H2 + 1/2O2 → H2O -(3)

 一般に電気化学反応において、化学エネルギーから電気エネルギーを計算するときには次の式が利用される。

 E = -僭/nF
  ただしEは起電力、Gはギブス自由エネルギー、nは反応に関わる電子数、Fはファラデー定数9.65X104Cmol-1、また1J=1CV。

 室温での燃料電池全体の反応(生成物である水が1molできるとき)では僭=-237kJmol-1である。また、反応に関わっている電子数は2なので、燃料電池の理論起電力は約1.23Vということになる(自分で計算してみよう)。

 ただし実際の燃料電池の起電力はこれほど高くはなく、0.7〜0.8V程度である。電球を燈すのにはこの程度の電圧で十分だろうが、自動車やパソコンを作動させるにはまったく足りていない。したがって必要な起電力を得るために、実際の燃料電池システムはいくつものセルを直列に連結(スタック)している。このことは「燃料電池の基本構造」で詳しく紹介している。



内燃機関と燃料電池の発電効率について

 火力発電や自動車のエンジンなどの内燃機関では、最終的に電気エネルギーを得るまでに、何段階にも渡ってエネルギーの姿が変わっている。だいたい下のような流れになっている。

  「化学→熱→機械→電気」

 まず、化石燃料などの化学エネルギーは熱エネルギーに変えられる。次に熱エネルギーは膨張圧縮などによって機械的なエネルギーに変換される。そして機械的なエネルギーが電気エネルギーへとかたちを変えていく。この過程で注目すべきは、「熱→機械」のプロセスだ。一般にこのプロセスでエネルギー効率を考えるとき、カルノーサイクルというものを考える。その考え方に従うと、エネルギー効率は次のように表現できる。

  (最大効率)εmax = (T1-T2)/T1
   ただし、T1は高温熱源の温度、T2は低温熱源の温度

 したがって内燃機関では熱源が高温であるほうが効率がよいことになるが、実際はエンジンの耐久温度の問題があるので千数百℃程度である。温度が上がりすぎるとNOxのような有害な気体が発生する問題もある。また、熱力学第二法則が示すように、すべての熱エネルギーが機械エネルギーに変わるわけではないので、上の式で表される最大効率よりもずいぶんと値が小さくなる。結果としてεは0.5〜0.6くらいである。


 一方、燃料電池の場合は、

  「化学→電気」

 というように、化学エネルギーから直接電気エネルギーに変えているため、内燃機関の様にカルノーサイクルを考慮する必要がない。したがって、燃料電池の温度は内燃機関の様に高温熱源を供えている必要はない。「化学→電気」のプロセスでのエネルギー効率は下の式のようあらわされる。

  εmax=僭/僣
   僣は式3でのエンタルピー変化で、その値は-286kJmol-1

 したがってεmax=0.83ということになる。ただしこれだけで、燃料電池システムが内燃機関と比べて効率もよく、エネルギー問題も解決するだろうなどと勘違いしてはいけない。というのも、今計算した効率は水素ガスを燃料としているが、その水素ガスを用意するにはガソリンや天然ガスなどの化石燃料から取り出してやる必要があるからだ。そのためには当然エネルギーが必要となる。(水素をどうやって獲得するかは次の項目で詳しく触れている。)とにかく実質的なエネルギー効率を考えるならば、すべてのプロセスをもれなく考慮しなければいけない。結果として、燃料採掘からの全エネルギー効率は、内燃機関も燃料電池システムも大きな差はない。

 燃料電池のメリットは、エネルギー効率というよりも、室温動作や低排出、振動騒音の低減、分散型発電などにあるといえるだろう。


どうやって水素を用意するか

 ガソリン、天然ガスなどの化石燃料を改質器に通すことで水素は用意される。現在、燃料としての水素ガスのほとんどは、天然ガス(主成分:メタノール)の水蒸気改質(スチーム・リフォーミング)によって大規模・高効率で生成されている。

 CH4 + 2H2O → 4H2 + CO2

 ただし、この過程では水素の他にも二酸化炭素が副生成物として発生する。水素ガスを燃料とした燃料電池自動車が登場すれば、都市部での排ガス問題は解決するだろうが、都市部から隔離されたとはいえ、やはり水素ガス生成の過程で二酸化炭素は発生してしまう。天然ガスを掘り出して空になった海底に埋めるといった計画があるが、現段階では見通しがたっているわけではない。


 なお、太陽電池で水を電気分解して水素を得るという方法も考えられている。確かにこれは水と太陽項だけで水素ガスを生成し、まったくクリーンな方法であるが、コスト面や可能な供給量を考えれば近いうちに主流になっていくのは難しいと思われる。



駆け足でたどる燃料電池の歴史 料電池の基本構造と分類