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究極のシンメトリー フラーレン発見物語
/白揚社


炭素第三の同素体 フラーレンの化学/学会出版センター



      最終更新日2002/10/17
 

  
イントロダクション
発見に至るまでの物語
フラーレンの科学的性質
フラーレン化学: 金属内包/化学修飾/C60のポリマーの世界
応用例 抗エイズ剤

 
■フラーレン
 − フラーレン化学


 1990年にクレッチマーとハフマンによるC60の大量生成法が確立してから、フラーレンの研究はいっきに加速した。そしてこのフラーレンの研究というものは、フラーレンのかごの内部に金属を取り込んでしまうといったものや、球状表面に官能基をくっつけるといったもの、それにフラーレンそのものを数珠玉のようにつなげるといった、それまでに類のないものだった。

 このユニークなフラーレン化学がどんなものか、どんな広がりをもっているのかを簡単に見てみよう。

 なお、フラーレンから派生し、もっと大きな分野として成長しつつあるカーボンナノチューブは、別のページで詳しく取り扱っている。


金属内包

 フラーレンに金属をとりこませる実験をはじめて行ったのはスモリーたちだった。この研究チームは、C60がサッカーボール型であることを証明するために、サッカーボール型なら金属原子を内部にとりこむはずだと仮定して実験が行われた。レーザー蒸発クラスター分子線装置で、金属でコートしたグラファイトを用いて実験を行ったところ、確かに金属を内包したと思われるC60のスペクトルが得られた。(もっともこれが、サッカーボール型の直接の証拠にはならなかったが。)

 このあとフラーレンに金属原子をとりこむ実験は世界中で、特に日本とアメリカを中心に行われた。金属内包フラーレンの面白いところは、内部にとりこんだ金属原子からフラーレンが電子を受け取り、金属が正に帯電し、フラーレンは負に帯電するということにある。

 ちょうど正を帯びた原子核の周りに電子が覆っていることと似た関係にあるので、「超原子」などと呼ばれ、最近まで盛んに研究されてきた。

 現在は、フラーレンが生成するときに金属原子をとり込ませているので、金属内包フラーレンを大量に合成することはできない。しかし、フラーレンができあがった後に人工的に「穴」をあけ、金属原子をとりこませようという研究も行われている。金属内包フラーレンが大量に合成できるようになれば、将来的には放射性元素をとりこんでガン細胞だけを局所的に死滅させたり、核燃料の有効廃棄などに利用できるかもしれない。


化学修飾

 フラーレンの球状表面に様々な官能基をつけ、面白い機能をもった分子ができないかといった研究がされている。フラーレンどうしが結合するときは、基本的にはvan der Waals力で弱い結合なので、従来の化学とは異なった超分子化学的なことが行われている。


フラーレンポリマー

 最近になって、フラーレンどうしを結びつけて、「
フラーレンポリマー」をつくる研究が脚光を浴びている。フラーレンポリマーになってはじめて発現する面白い機能はいくつもあるようだが、特に注目すべき性質が、「磁石」フラーレンだ。


 一般にフラーレンの結晶は、弱いvan der Waals力によって面心立方構造をとっているが、これを高温高圧(6GPa,1025〜1050K)条件下におくと、格子内のフラーレンが斜めに共有結合を形成してポリマー化し、あたかもグラファイトシートのような構造をとる。さらに、そこに現れる新たな性質が「磁石」だ。

 この理由はまだはっきりとはわかっていないが、おそらく新たに形成された共有結合は、sp2-sp3の中間状態の結合状態で、この軌道上に存在する孤立電子のスピンが原因になっていると考えられている。

 これは現在フラーレンポリマーに見られる最も注目すべき性質だが、他にも新たな性質が発見されるかも知れない。



フラーレンの化学的性質 応用例