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メゾスコピック系の不思議
/丸善


メゾスコピック系の物理
/丸善


Mesoscopic Systems: Fundamentals and Applications
/John Wiley & Sons



 

  
イントロダクション
量子サイズ効果
バリスティック伝導
クーロンブロッケイド、単一電子トンネリング
リンク集

 
■メゾスコピックサイエンス
 − クーロンブロッケイド、単一電子トンネリング



駅や博物館の入り口にある回転扉(ターンスタイル)は、人が一人ずつ流れるように制御するためのものである。クーロンブロッケイドを利用した単一電子トランジスタも、この回転扉と共通する役割をもっている。


メゾスコピック系で顕著にあらわれる電子の孤独癖 - クーロンブロッケイド

 電子と電子が近づくとお互いに反発し合い斥力を生み出すが、例えば試料AからBへ電子が移動すると、Bには

  E
c=2e2/C
    (Cは電気容量)

 のエネルギーが蓄えられることが知られている。しかしこの程度のエネルギー変化は、室温(300K程度)でバルクスケールの試料のもっている熱エネルギーに比べればはるかに小さなものだ。電子一つがもぐり込んだことによるエネルギー変化は、この熱のゆらぎに対して十分無視できる。仮に1K程度の低温でも、原子がアボガドロ数個(1023)もあるバルクスケールなら、電子移動によるエネルギー変化は同じように無視できるだろう。

 つまり、電子と電子が十分離れて存在できるバルクスケールでは、お互いに反発し合う孤独癖がほとんどあらわれてこないというわけだ。


 ところがメゾスコピック系では話がまったく違ってくる。メゾスコピック系の試料では、その電気容量Cが極端に小さくなり、電子移動によるエネルギー変化Ecはもはや無視できないほど大きくなる。

 バルクスケールではお互いに離れていたために孤独癖をほとんど見せなかった電子が、ナノスケールの狭い領域に押し込められたために反発力が大きくなり、孤独癖が顕著にあらわれるようになったと考えることも出来るだろう。

 こうなるとナノスケールの試料AからBへ電子が移動することで生じる影響が非常に大きなものとなり、反発力によって電子の移動がブロックされるという現象がおこる。この現象のことを「
クーロンブロッケイド(Coulomb Blockade)」と呼んでいる。



電子を一つ一つ制御するトランジスタ



 では、このクーロンブロッケイドという現象を、エレクトロニクス分野でどのようにいかすことが出来るだろうか?その代表的なものに「単一電子トランジスタ(SET,Single Electron Transistor)」がある。SETの原理は、基本的にはMOSトランジスタと同じであるが、ソースとドレインの間にトンネル障壁と呼ばれる絶縁層が存在している。またトンネル障壁の間には、ナノスケールの量子ドット(電荷島ともいう)が存在している。(図1)

 このドットにソースから電子が一つ輸送されてくると、すでにドットの中にある電子の反発を受けてブロックされてしまう。そのためこのトランジスタ内に電子を移動させるためには、ドットと静電結合したゲート電極に印可することでコントロールしてやる必要がある。


 ゲート電極に正の電圧をかけると、ドット内のエネルギー準位が動き、ドットに入射した電子のエネルギーが離散エネルギーに等しいときにだけ電流が流れる。このような電流の流れ方をクーロンブロッケイド振動と呼んでいる。(図2,3)

 クーロンブロッケイドには電子の波動としての性質を示すトンネル効果が関わっているにもかかわらず、電子を一つずつ輸送するといった粒子性も同時に現れており、実に興味深い現象だといえる。

 この現象によって電子を一つ一つ制御しながら輸送することが出来ることから、単一電子トランジスタという名前がついている。量子ドットのサイズがナノスケールに出来れば、このトランジスタは室温でも駆動することが実証されている。

 このSETの利点は、電子数個でスイッチングを行っていることによる低消費電力の実現や、MOSトランジスタ特性と異なる点を生かした回路設計などがある。



バリスティック伝導 リンク集