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気ニナる
「恒星/惑星」の話をややこしくする天体



---今までは太陽系の外の宇宙でも、太陽系のような恒星と惑星のモデルが典型的だと考えられていました。ところが最近、太陽系はとくにシンプルな例で、宇宙にはもっと複雑な惑星系が存在していることがわかってきました。とくにその話をややこしくしているのが、巨大な惑星ともできそこないの恒星ともつかない「褐色矮星」の存在でした。---



この記事では
   地球が太陽系にあって運がよかったというのは・・・
   とにかく中途半端な褐色矮星
   巨大な惑星よりも星のできそこない
   ダークマターとの関係
     という内容で構成しています。
 


地球が太陽系にあって運がよかったというのは・・・

 「地球が、太陽系のこの位置に存在していたということは、私たちにとってまったく運のよいことだった。」

 ・・・あまりにも陳腐な言葉だったでしょうか。しかしこの言葉には、おそらく皆さんが知っている意味の他にも、もう一つの別の意味が隠されているのはご存知でしょうか?


 5年前に、ある天体を見つけてからというもの、天文学者たちは、改めて地球が太陽系にあってよかったと安堵のため息をついているのです。

 ガリレオ以来、天文学というのは非常に順調に進歩してきました。しかし、もし地球が太陽系に存在していなかったら、おそらくこんなに順調に天文学は進歩していなかったかもしれないのです。私たちの地球が太陽系に偶然存在していのは、天文学の進歩にとって非常に幸運だったというわけです。

 でも、いったい何のことを言っているのでしょう?

 太陽系では、恒星である太陽を中心にして惑星が回っているという仕組みは誰でも知っていることです。そして、太陽系外の宇宙でも同じように、このような惑星系が出来上がっていると考えられています。つまり、太陽系のモデルが、宇宙の惑星系の典型例だとされているわけです。

 しかし、実はそうでもないということがだんだんと明らかになってきたのです。むしろ、太陽系のモデルは、宇宙の中でも非常にシンプルな例で、太陽系外の宇宙では、もっと複雑な惑星系がいくらでも存在しているということがわかってきました。

 太陽系外の惑星系では、恒星とも惑星とも判断しがたい褐色矮星(かっしょく・わいせい)というものが存在しているのです。この褐色矮星とは、できそこないの恒星とも、巨大な惑星ともいうことができます。もしくは、恒星や惑星とはまったく別の天体というべきなのかもしれません。

 ともかく、もしこの褐色矮星というややこしい天体が太陽系に存在していたら、ガリレオもそう簡単に地動説を打ち立てることができなかったでしょう。そしてガリレオの貢献がなかったとしたら、今の天文学はどうなっていたことでしょうか。そう、この意味でも、地球が太陽系に存在していたことは奇跡的で運のよかったことだったというわけです。


 実はこの奇妙な天体については、今から約40年前にアメリカの天文学者が予言していました。円盤状のガス雲が渦を巻いて恒星を生み出すとき、十分な大きさがあれば恒星となって話は一件落着なのですが、もし大きさが足りず恒星になれなかったものは、目に見えるような光を出さない天体になってしまうと考えていました。

 それほど昔から予言こそされていたものの、実際は、なかなか褐色矮星を見つけることができませんでした。ところが5年前に初めて観察されたのをきっかけに、次々とこの褐色矮星が発見されていきました。

 しかしそれと同時に、以前では考えられなかったようなことまで次々と明らかになってきました。そのためもう一度、恒星や惑星とはどういうものなのかといったことなどを再検討する必要が出てきたのです。

 そこで今回は、この天文学者を不眠症に陥れるややこしい褐色矮星について探ってみることにしましょう。




とにかく中途半端な褐色矮星

 この褐色矮星というのは、惑星と恒星を基準に考えると、とにかく中途半端な天体なのです。

 例えば、大きさについてですが、ものによっては、木星の数十倍の大きさのあるものまで存在しているのです。そもそも、太陽系の中で、木星自身も異様な大きさを誇っているのですが、それ以上に褐色矮星は大きいのです。

 じゃあ、巨大な惑星ではなくて、太陽のように恒星なのではないかと思うかもしれません。しかし、普通の恒星とは違って内部などで核融合などの反応が起こっておらず、この褐色矮星は目に見える光を放っていないのです。表面の温度も2500度くらいと、太陽や他の恒星と比べると、ずいぶんと低めの温度なのです。

 これだけ大きな天体が5年前まで発見されなかったのは、恒星と違って可視光線を放たない、地味な天体だったからです。しかし、この天体は赤外線を放っているので、最近はそれを利用して観察するようになりました。

 じゃあ、やっぱり褐色矮星はバカでかい惑星なのかと言われれば、また困ったことに、この褐色矮星は自分の惑星ももっていると考えられているのです。


 恒星にしても、惑星にしてもそれぞれに、それなりの定義があるわけですが、少なくとも今までは、惑星と恒星の区別は、別に迷うほどのこともありませんでした。しかし、褐色矮星は今までのようにはいきません。この褐色矮星の発見のおかげで、再度、惑星系などについてまで考え直す必要が出てきたのです。




巨大な惑星よりも星のできそこない

 惑星と褐色矮星を質量などで区別することは、もはや無理があるわけです。そこで、質量ではなくて、どのようにしてその天体ができたかということを中心に区別をする方がよいというわけです。

 そして観察が続けられ、ついにこの褐色矮星がどのように形成されていくのかを示す証拠を得ることができました。

 その結果、褐色矮星が太陽などの恒星と同じように形成していくことがわかったのです。もっとも、最初に出てきたように、褐色矮星が恒星と同じように形成されるということは、これまでにも理論としてはありました。しかし、それが実際に観測されたのは今回が初めてなのです。

 今回の観察がおこなわれたのは、太陽系から1200光年離れたオリオン星雲でした。というのも、ここでは今でも新しい恒星が次々と誕生しているからです。そしてほとんどは、誕生してわずか100万年くらいの若い恒星ばかりだと考えられています。そのため、恒星が形成されると同時に、できそこないの褐色矮星も多く出来上がってきているのではないかと考えられていたからです。褐色矮星を探すには絶好の場所といえるでしょう。
(今回の観測されたオリオン星雲の写真↓:ESO image of the Orion Nebula and Trapezium Cluster )
       


 今回の発見をしたのは、フロリダ大学の研究チームで、チリのアンデスに設置した最新型の近赤外線の望遠鏡を利用してオリオン星雲を観察していました。

 この研究チームは、恒星に形成されていく円盤状のガス雲と同時に、中心に褐色矮星とおもわれる天体を取り囲んだ円盤状のガス雲も発見したのです。実は以前にも、ハッブル望遠鏡がこのガス雲を発見していたのですが、内部にどのような天体があるかということは確認できていませんでした。では、どうして今回は、ガス雲の中心にあって見えない天体が褐色矮星だと分かったのでしょう?

 それは、近赤外線を使った望遠鏡を利用して観察したからです。赤外線はガス雲によって吸収されることがないため、ガスに囲まれていても中心の天体が確認できるからです。


 また、新しい褐色矮星の周りには円盤状のガス雲が取り巻いているものがあるのですが、そのガス雲から惑星が形成される可能性も十分考えられるとされています。もっとも、今の技術では、褐色矮星が惑星を持っていても見つけ出すのは難しいとされています。また仮に褐色矮星に惑星が存在していても、私たちの地球とは違って、ほぼ絶対零度の非常に過酷な環境だと考えられています。



ダークマターとの関係

 ところで、宇宙の質量というのは、計算によって導かれたものと比べて、実際に観察によって得られた質量が小さいことが分かっています。そのため、宇宙には目に見えない質量をもったもの、つまりダークマターというものが考えられているのですが、その候補の一つとして、褐色矮星が考えられていました。というのも、可視光を利用した望遠鏡ではほとんど観察できなかったからです。

 しかし、今回の報告により、褐色矮星がダークマターの秘密をとくカギにはなりそうにもないことが分かりました。数はたくさん見つかりましたが、観察された褐色矮星の質量というものは、星雲全体の質量の割合としては非常にわずかなものだと分かったからです。

 むしろダークマターとは、褐色矮星やブラックホール、中性子星といった原子や分子などの、いわゆる「普通の物質」で構成されるものによるのではなくて、ニュートリノなどのもっと別の粒子によるものではないかと考えられています。



 さて、褐色矮星について、いろいろと明らかになってきたは言っても、まだまだ謎が多いのも確かです。とにかくややこしい天体ですが、太陽系の外では、恒星と同じくらいの数が存在していると考えられています。

 そこで、もう一度、最初の言葉を繰り返してみましょう。「地球が、太陽系のこの位置に存在しているということは、私たちにとってまったく運のよいことだった」と。




        

関連コラム
宇宙を題材にしたコラムは以前にもいくつか書いたことがあります。その中から、太陽系の外の話をいくつか拾ってみましょう。

金は「地球外生成物」?
「平ら」な宇宙
星の泡を吹き出す誕生


関連サイト

NTT Observations Indicate that Brown Dwarfs Form Like Stars(英語)
 今回の発見のプレスリリース。下の写真は要チェック。
 ・オリオン星雲(496k)
 ・褐色矮星の位置(90k)
 ・上の二つを重ねあわしたアニメーション(248k)
 ちなみに"NTT"とは"New Technology Telescope"の略。違うものを想像してしまった人、ご愁傷様(^^;。

褐色矮星の発見がもたらすもの - ISASニュース
 ちと古いのですが、5年前の発見が関係者にとってどれほどの興奮ものだったかが伝わってくる文章です。日本語。

ダストの円盤をもつ褐色わい星 - アストロアーツ天文ニュース

 ちなみに「褐色矮星」って日本語はいまいちピンとこないのですが、英語でも"brown dwarf(茶色い小人?)"と名前の付け方自体、あまりよろしくないように思います。あと、他にも"red dwarf"とか"white dwarf""yellow dwarf(太陽型)"などと、戦隊ものさながらのバリエーションがあります。もちろん、それぞれはまったく別の種類の天体です。


      

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