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「平ら」な宇宙



---最近、「平ら」な宇宙像というものが注目されています。この宇宙像はビッグバンにはじまり、そして、今もさらに加速しながら膨張しているというものです。しかし、いったい「平ら」とはどういうことなのでしょう?それに、どうして平らだと分かったのでしょう?---



この記事では
   三人の科学者と私たち
   平らな宇宙?
   ビッグバンが残した鼻歌
   目に見えないもの
     という内容で構成しています。
 


三人の科学者と私たち

 3人の科学者について、こんな昔話があります。

 あるとき、生物学者と物理学者、それに数学者の三人が、偶然同じ電車に乗り合わせました。そのとき、車窓から、丘の上に一匹の黒い羊がいるのが見えました。しかし、その3人は、それまで羊というものを見たことがありませんでした。

 そこで3人は、車窓から見えたことから、羊についてどんなことが結論付けられるか話し合いました。

 はじめに、生物学者は、「羊は黒い」と言いました。
 次に、物理学者はもう少し注意深く、「黒い羊もいるようだ」と言いました。
 そして、最後に理屈っぽい数学者は、「羊というものは少なくとも一匹は存在して、体の半分は黒い」と言いました。

 羊というものを知っている私たちにとっては、三人の科学者の話はなんともおかしく聞こえます。しかし、私たちが宇宙を見せられて、どのようなことが結論づけられるかと聞かれたら、結局のところ、この三人のおかしな議論と同じになってしまうのかもしれません。

 しかし、同じものを見ていても、どれだけ注意深く観察するかということで、見えてくるものがだいぶ違ってきます。

 今では宇宙像というのは実にさまざまなものがあります。しかし今回は、この数学者のように注意深く観察することで得られた、最近注目されている宇宙像について考えてみることにしましょう。




平らな宇宙?

 それは「平ら」な宇宙というものです。ビッグバンにはじまり、膨張していき、さらに今でもどんどん加速しながら広がりつづけているという宇宙像です。

 まあ、宇宙がビッグバンにはじまるインフレーション論というのは、誰でも聞いたことがあるはずですが、それ以外に気になることがありますよね。


 一つは、今でもどんどん加速して膨張していくということでしょう。一般的には、宇宙というのはビッグバンの急激な膨張に始まり、じょじょにそのスピードを落としていくと考えられていることが多いと思います。中には、いつか宇宙の膨張が止まって、収縮に向かっていくという説もあります。

 ようは、宇宙の遠い将来は、永遠に膨張しつづけるか、ビッグバンではじまりがあったように、いずれ何らかのかたちで終わりがやってくるという二つが考えられるわけですが、最近では永遠に膨張しつづけるのではないかといった考えを支持する手がかりが幾つか見つかってきました。


 もう一つは、加速しつづけるということよりも、さらに理解しにくい、宇宙が「平ら」という概念です。宇宙のかたちというのも、いくつか候補があります。主に、閉じた球の平面状に似ているもの、馬の鞍の平面状に似ているもの、そして、この開いていて「平ら」な宇宙像という3つが挙げられるでしょう。

 はじめの二つの宇宙像はどんどん進んでいけば、また最初の場所に戻ってくるというように、宇宙の果てを考える必要がなく、なんとなく想像しやすいのですが、どうも平らな宇宙というのは、いまいちピンときませんね。ちょうど一年前に、「平ら」な宇宙という題名の記事があちこちの新聞に載っていましたが、いまいち分かりにくいものでした。"flat"というのをそのまま日本語に訳しただけで、ニュアンスが正確に伝わりにくかったようです。

 そこで、この「平ら」な宇宙像というものを少しでも分かりやすくするために、何を手がかりにし、どうやってこの宇宙像に至ったのかということを追って考えてみる必要があります。




ビッグバンが残した鼻歌

 最近になって、ある三つのそれぞれ独立した研究グループが、「平ら」な宇宙を支持する内容の報告をしました。

 それぞれ、ブーメラン(BOOMERANG)、マキシマ(MAXIMA)、デイジー(DASI)と呼ばれる研究グループで、このうち二つは南極の空で望遠鏡をつるした気球を飛ばし、そして、もう一つは南極の観測所から、宇宙の彼方を注意深く観察していました。今の南極は、いろいろな研究グループがいろいろなことを観察しており、非常ににぎやかになっています。

 ご存知のように、夜空に見えるものは、決して今の私たちと同じ時間に存在するものだとは限りません。宇宙で遠くのものを見るということは、過去のものを見ているということと同じ意味をもってきます。光の速度が速いため、地球上では無視できるよなこの時間のずれも、宇宙では無視できないものになってきます。例えば、今目に見える太陽は、8分前のものですし、太陽の次に近くに見える星は4年前のもので、私たちの銀河からもっとも近いといわれているアンドロメダ星雲は200万年も前のものです。

 そのため、観測するものに、私たちの地球からより遠いものを選べば、宇宙が誕生して間もないものも見ることができると考えられるわけです。そこで、この三つのグループが一生懸命観測していたのは、宇宙背景放射(Cosmic Microwave Background Radiation, CMB)というものでした。これは、宇宙のあらゆる方向からやってくる、かなり波長の大きなマイクロ波のことです。


 ビッグバンの直後の宇宙は、今よりもはるかに温度が高く、非常に高密度な状態でした。また、物質は今のような状態で存在せずに、原子を構成するさらに小さい素粒子に分かれて飛び交っていました。このときの宇宙は、あまり密度的にむらのない均一な状態でした。しかし、膨張するにつれ、次第に宇宙は冷えていき、それぞれの素粒子が固まっていき、原子をつくり、今の星や銀河をつくっていき、不均等になっていきました。

 宇宙背景放射というのは、この二つの時期の中間にできてきたものと考えられています。ちょうど宇宙が冷めはじめる30万年後くらいのときにできたもので、そのマイクロ波を観測することで、当時の宇宙の温度分布の様子が現れていると考えられています。
(宇宙背景放射の観測図、http://www.physics.ucsb.edu/~boomerang/new_press_images/raw_images/newmap.jpg )


           Coutercy Boomeran

 したがって、宇宙背景放射からのマイクロ波は波という点で音と共通しているので、宇宙が誕生してまだ幼いころに残した鼻歌のようなものといえます。それが150億年以上たった今になって私たちの住む地球へ届いてくるのです。もっとも、鼻歌は周波数が低すぎるため、私たちの耳にはまったく聞こえないのですが、科学者たちは、非常に注意深く、その小さな音の鼻歌を観測したのです。



目に見えないもの

 では、科学者たちはこの鼻歌から、どのようにして「平ら」な宇宙像に至ったのでしょう。一般相対性理論では、重力というのは、時空が歪んでいるために時空に沿ってまっすぐ進んでも、曲がっているように見えるというふうに説明されます。そのため、はじめに平行だった光はいつまでも平行に進むとは限りません。互いにはなれていったり収束していったりします。ところが、平らな宇宙というのは、平行な光はいつまでも平行なのです。

 ここに、平らな宇宙と球状に閉じた宇宙を示す図があります。

  図1  「平ら」な宇宙                        図2  球状に閉じた宇宙



 図1は平らな宇宙で、図2は球状に閉じた宇宙です。同じ大きさの赤の線を地球から観測したときに、それぞれの角度が違ってくるのが分かりますよね。平らな宇宙では、光はまっすぐ進むので、角度は小さいままです。ところが、閉じた宇宙に沿って曲がって進んだ光の場合は、角度が大きくなります。したがって、宇宙背景放射が実際のものと比べてゆがんで見えてしまうのです。三つのグループは、この角度の違いなど観測していたのです。これが「平ら」と表現される宇宙で、これを根拠にして宇宙が「平ら」だと考えているのです。「平ら」というのを二次元の平面と考えると、ちょっと誤解しやすくなってしまいます。


 今回の観測をしたグループのある科学者は、この平らな宇宙像について、今までの理論に奇妙なほど矛盾せずに、宇宙論の標準モデルになりうるほどだとさえ言っています。もちろん、これで宇宙像が決定したわけではありませんが、宇宙論というのはある意味、つじつまあわせの理論(ファッジ・ファクター、fudge factor)の歴史とも言えるわけで、その点は、この「平ら」な宇宙像とは大きく評価できるものかもしれません。


 また、今回の観測を考える場合、もう一つの大きな謎を避けて通ることはできません。それは、宇宙の質量の分布です。この報告によると私たちの目に見える、星や銀河、人間、車、ネコなどといった、私たちの目にするふつうの物質は、全宇宙の質量の5パーセントにも満たないということです。では残りは何かということになりますが、謎の多いダークマターが30パーセント、そして、さらに謎なダークエネルギーは65パーセントも存在していると考えられています。

 この目に見えない質量やエネルギーの謎をを、ダークマターやダークエネルギーと考えることこそ、宇宙論のつじつまあわせの典型例のようなものなのですが、実はこれについても、最近、本当にダークマターやダークエネルギーが存在するという有力な手がかりが見つかってきています。

  
 今までは、宇宙を理解しようとするために、多くの科学者が夜空に光る星などの目に見えるものを中心に観察してきました。しかし、これらは宇宙全体の非常にわずかなものだったのです。これからは、宇宙をより深く理解するためには、目に見えるものと同時に、ダークマターやダークエネルギーという見えないものも詳しく観察していく必要があるわけです。

 





  ダークマターとかダークエネルギーは話し出すときりがありません。まあ、またそのうちに。というか、こっちの方が「平ら」な宇宙像よりも、面白いような気が...。あと、本文だけではよく分からないと思いますから、関連サイトなどを参考にするということで....(^^;。


               
関連サイト

 ・宇宙背景放射について
  NASDAの宇宙情報センターのスペース百科から。

 ・NHKスペシャル 宇宙 未知への大紀行のページ
  さすがNHKというか、CGがたくさん使われていてきれいですね。宇宙の話はやっぱ映像で飾らないと(^^;。


 ・ブーメラン・チームのホームページ(英語)
   ・プレスリリース、宇宙背景放射の観測図など
   ・宇宙背景放射について

 ・マキシマ・チームのホームページ(英語)
 ・デイジー・チームのホームページ(英語)


関連ニュース(英語)
なんというか宇宙像を一般的に語ろうとすると比喩表現が多用されます。このニュースも然り。分かったような分からないような・・・
 ・Calculating Contents of Cosmos - ワシントンポスト
 ・Early universe comes into focus - Physics Web
 ・Listen Closely: From Tiny Hum Came Big Bang - ニューヨーク・タイムズ


   

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