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「暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで」 / 新潮社


量子論の宿題は解けるか
/ 講談社ブルーバックス

The Physics of Quantum Information: Quantum Cryptography, Quantum Teleportation, Quantum Computation
/Springer Verlag





 
       最終更新日 2002/08/29
  
イントロダクション
量子テレポーテーションに関する歴史
より安全な暗号を目指して
量子テレポーテーションの基礎
量子テレポーテーションの流れ(理論編)
量子テレポーテーションの流れ(実験編)
今後の展望&リンク集


 
■量子テレポーテーション、量子暗号
 − 量子テレポーテーションの基礎知識


 ここでは量子テレポーテーションを理解するための基礎知識について簡単に確認しておこう。

粒子の重ね合わせ

 量子力学では、電子や光子といった粒子が二つ以上の量子的な状態をとることが可能なとき、観測するまではそれら複数の状態の重ね合わせにある。例えば、電子のスピンは「プラス」と「マイナス」、光子の偏光は「垂直」と「水平」といった二つの状態の「
重ね合わせ」の状態にある。

 なお、それぞれの状態をビット、つまり|0>と|1>に対応させた場合、量子ビットは次のように表される。(|0>や|1>という表現は「状態ベクトル」という。)

 c0|0>+c1|1>  c12+c22=1

 従来のビットならこれは0と1のあいだということでエラーになってしまうが、量子力学では重ね合わせの状態として表される。これが量子ビットと従来のビットの異なるところである。

 量子テレポーテーションの媒体に用いるのは光子の偏光でも電子のスピンでも可能であるが、光子は外部からピュアな状態を保ったまま遠くに送ることができるので、量子通信には光子がベストだと考えられている。


粒子の絡み合い

 二つの粒子を一度の操作で同時に発生させた場合、その二つの粒子は「
絡み合い、エンタングルメント」と呼ばれる状態にあり、不思議な運命共同体となる。絡み合いの状態にある二粒子は、一方の量子的な状態が決まると、瞬時にもう一方も決まるという性質がある。このことが起きるのは二粒子の距離に関係しない(非局在性)。これのことは、量子テレポーテーションや量子デンスコーディングなどの量子情報通信の基礎となっている。

 この絡み合いの粒子対をつくるための具体的な具体的な操作は次のようなものがある。

 ホウ酸バリウムのような光学的に非線形な性質をもつ結晶にUVレーザー光をぶつけた場合、一つの光子が波長の長い二つのの光子に分裂することがある。(波長が長くなるのはエネルギーを一定に保つため。)また、分裂したそれぞれの光子は、図に示すような二つの円錐に沿って、はじめのUVレーザーを軸として対称的に飛んでいく。(対称的に飛んでいくのは運動量を一定に保つため。)

 特に、図の二つの円錐が交わるところでは、二つの光子を区別できない絡み合いの状態にある。この絡み合いの光子対については偏光が互いに直交していることは分かっているが、それぞれがの偏向角が具体的にどうなっているかを知ることはできない。このようにして絡み合いにある光子を作成する。この方法はパラメトリックダウンコンバージョン(parametric down conversion)と呼ばれている。


ベル測定

 いわば、パラメトリックダウンコンバージョンの方法は、生まれたときから絡み合いの状態にある二つの粒子をつくりだすというものだ。現在ではこの方法は技術的にも容易になってきた。ところが、すでに孤立して存在している二つの粒子を絡み合いの状態にするのは、もっと難しい。それを実現する例として、次のようにハーフミラーを用いた方法がある。


 図Tでハーフミラーにぶつかったそれぞれの光子は50:50の確率で反射か透過する。例えば、左上からやってくる光子A(青)が反射し、左下からやってくる光子B(黄)が透過する場合は、図Uのように両方が右上に進んでいく。図にはないが、逆に両方が右下に進んでいくこともある。しかし、光子A、Bがともに反射かもしくはともに透過するときは図Vのようになる。ここで注目しなければならないのは、Vの場合、図の右上に進んでいく光子(緑)と図の右下へ進んでいく光子(緑)のどちらが粒子A、Bなのか区別ができないということだ。つまり孤立して存在していた二つの粒子の区別がつかない。

 したがって、光子の進んで行く先に検出器を設置しても二つの粒子を区別することはできない。検出できるのは、二つの粒子が図Uのように同じ方向に進んでいったのか、それとも図Vの用に別々の方向に進んでいったのかという相対的な関係だけである。この相対的な関係には4通りの状態あるが、その状態を観測することを「
ベル測定」という。

 このベル測定が技術的に難しいのは、二つの粒子を区別ができないように同時に観測しなければいけないことにある。つまり、二つの粒子A、Bは同時にビームスプリッターに達するようにしなくては行けない。


補足:ベル測定で観測する4つの状態とは…

 この絡み合いの状態にある二つの粒子対で2量子ビットを表そうとした場合、どのようになるだろうか?もし二つの粒子を独立して考えたら、それぞれの粒子は|0>、|1>をとるので、次のような4つの状態が考えられるだろう。

 |00>、|01>、|10>、|11>

 この4つの状態ベクトルは基底ベクトルといい、量子ビットはこの基底状態の重ねあわせの状態にある。

 ただし、絡み合いの状態にある粒子で考えるときには、上の基底ベクトルを用いて規格化した「ベル状態」と呼ばれる4つのベクトルで表現するのが一般的である。

 |Φ+> = 1/√2(|00>+|11>)
 |Φ-> = 1/√2(|00>-|11>)
 |Ψ+> = 1/√2(|01>+|10>)
 |Ψ-> = 1/√2(|01>-|11>)

 2量子ビットから構成される系が4つのベル状態のいずれにあるかを調べる量子測定はベル測定と呼ばれ、量子テレポーテーションなどの量子通信で重要な役割を果たす。ベル測定では、二つの粒子を同時に観測することが重要となる。このことは「量子テレポーテーションの流れ」のページで具体的に見てみる。



より安全な暗号を目指して 量子テレポーテーションの流れ(理論編)