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Organic Light-Emitting Devices: A Survey
/ Springer Verlag


よくわかる有機ELディスプレイ―携帯電話からテレビまで 有機ELが拓く新ディスプレイ時代
/電波新聞社


有機ELのすべて
/日本実業出版社

テクノタイムズ社


有機ELディスプレイ技術(月刊ディスプレイ増刊01/12)
/テクノタイムズ社



 

  
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有機ELディスプレイ
 − 発光のメカニズム

発光のメカニズム

 有機ELディスプレイの中心となるサンドイッチ構造については理解してもらえただろうが、では、この発光の原理はどうなっているのだろうか?

 このページでは、エネルギーバンド図を使って発光までの過程を詳しく見てみよう。低分子でも高分子の場合でも基本的な原理は変わらないので、ここでは高分子のほうを例に用いることにする。

エネルギーバンド図について
 ITOやアルミニウムなどの無機結晶は価電子帯と伝導帯に分かれたバンド構造をとっている。
 また、有機層のPPVは、バンド構造というよりも、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)とLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)と呼ばれる「分子軌」になっている。


有機層について
 有機層に注入された電子と正孔が再結合して有機分子を励起するまでは、有機層の中を「ホッピング」しながら移動する。規則正しい結晶構造をとる無機固体と異なり、高分子は無秩序な構造をしているので、電子や正孔にとっては非常に動きにくい。そのため、キャリアは有機層を移動している間にエネルギーを失ってしまう。したがって、効率よく発光させるためには、キャリアの移動する距離を短くする、つまり有機層を非常に薄くしてやる必要がある。そのため、無機結晶のLEDチップの厚みは数ミクロンのあるのに対し、有機ELの場合はわずか数十nmから数百nm程度しかない。




サンドイッチ構造の改良

・陰極材料の取り替え、バッファ層

 1990年にFriendらによって作られたこのITO-PPV-Al構造は、確かに発光こそするが、あまり効率のよいものとはいえなかった。

 その理由は、Al陰極の価電子帯から高分子のLUMOへ電子が飛び移るときのエネルギー障壁(僞
e)が大きいからだ。そのためバイアス電圧は大きくなければならず、エネルギー効率がいいとはいえない。

 ITO陽極については、僞
hの値は比較的小さいが、まったく問題がないわけではない。ITOは均一な膜状に作るのが難しく凸凹が生じ、素子短絡が起こりやすい。そのため仕事関数が大きく変化する(4.8-5.2eV)。こうなると正孔の注入量が不安定になり、キャリアの数量バランスが崩れて効率が落ちてしまう。

 この二つの問題を解決するために、次のような構造が考えられた。


陰極の材料を取り替え、バッファ層の挿入

 まず、陰極の材料を、アルミニウムからマグネシウム・銀の合金にとりかえることで、電子注入障壁はずいぶんと小さくなる。マグネシウム合金のかわりにカルシウムにすると、さらに電子注入障壁を小さくすることができる。ただし、アルミニウムのときと比べてマグネシウム合金、カルシウムはまわりの環境に敏感で、酸化して絶縁層をつくることがあるので、外部からの遮断が重要な課題となる。

 一方、PPV-ITO間の凹凸の問題はどのように解決したのだろうか?PEDOT(ポリチオフェン、poly(ethylenedioxy)thiophene)は可水溶性で、ITO電極面上に膜形成させることで凹凸を滑らかにすることができる。また、PEDOT層は仕事関数の点からも二つの層の間にワンクッションもたせる役割を果たしている。ITOは仕事関数が4.8eVであるのに対し、PEDOT(ポリチオフェン、poly(ethylenedioxy)thiophene)は5.0eVなので、PPVとITOの仕事関数の中間にある。これによって正孔の注入が効率よく行うことができる。


・ヘテロ構造

 無機結晶のLEDの場合でも、「(ダブル)ヘテロ構造」は効率よく発光を行うことのできる構造である。LEDのヘテロ構造というのは、種類の異なる半導体をいくつか重ねて、ある特定の層にキャリアを閉じ込めるようにしたものだ。キャリアが特定の層にバランスよく集中するので、効率よく再結合が起こり、発光効率がよい。

 有機ELのヘテロ構造も、特定の層にキャリアを閉じこめるという点では共通している。下に有機ELのヘテロ構造の例を挙げている。


ヘテロ構造を採用した高分子の有機EL

 この場合は、有機層が三つの有機分子の層から構成されていて、順バイアスをかけたときのエネルギー関係は上図のようになっている。正孔を注入する陽極とPPV層の橋渡役をするMEH-PPVは、正孔輸送層(HTL)と呼ばれている。一方、電子を注入する陰極とPPV層の橋渡役をするCN-PPVは、電子輸送層(ETL)と呼ばれている。また、キャリアが閉じ込められるPPV層で再結合が起こり発光するので、PPV層は発光層(EML)と呼ばれている。



有機ELの基礎 量子効率について