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カーボンナノチューブ-ナノデバイスへの挑戦
/化学同人


カーボンナノチューブの基礎
/コロナ社


究極のシンメトリー フラーレン発見物語
/白揚社


Carbon Nanotubes and Related Structures: New Materials for the Twenty-First Century
/ Cambridge Unv. Pr.


Physical Properties of Carbon Nanotubes
/ World Scientific Pub. Co.


Carbon Nanotubes: Synthesis, Structure, Properties, and Applications
/ Springer Verlag



 

  
イントロダクション
発見の歴史
導電性・量子的性質
その他の性質
成長メカニズム
生成法
加工・操作
応用例
その1 電界放出ディスプレイ(FED)
その2 走査プローブ顕微鏡の探針
その3 分子エレクトロニクスへの利用
リンク集

 
カーボンナノチューブ
 - 導電性・量子的性質


単層ナノチューブの構造と導電性

 カーボンナノチューブ(CNT)の構造を説明するときに、「一枚のグラファイト(グラフェンシート)を筒状に巻いたもの」と表現することがある。バンド構造の計算結果から、グラフェンシートを筒状に巻いたときの直径
と「螺旋度(カイラリティ、chirality)」で導電性が異なると考えられている。つまり、グラフェンシートを巻くときに、円筒の軸に対して六員環をまっすぐ巻くか傾けて巻くかで、導電性が大きく変わるというわけだ。

 そこで、グラフェンシートの巻き方によって、CNTがどのようなタイプに分類でき、導電性はどう変わるかをを見てみよう。
CNTのタイプ m,nの関係 導電性
ジグザグ(zig-zag) (n,0)
m=0
金属、半導体
カイラル(キラル,chiral) (n,m)
n>m≧1
金属、半導体
アームチェア(armchair) (n,n)
n=m(≠0)
金属のみ

 これにより、アームチェア型のみは必ず金属的な導電性を示す。ただし、単層ナノチューブを螺旋度によって分離することは難しく、それぞれのタイプのSWCNTの導電性をSTMなどを使って実験によって調べられるようになってきたのはここ数年のことだ。



 なお、多層ナノチューブの伝導性については、それぞれの層のナノチューブの電気的性質はお互いの相関が弱いことが実験から分かっているので、金属-半導体(絶縁体)-金属のようなナノスケールの同軸ケーブルの性質をもっていると考えられている。ただし現時点では、層ごとに電極をつけて伝導性を計測する手段がないために、詳しくは分かっていない。



一次元量子細線としての単層ナノチューブ


 実際に合成できる単層ナノチューブ(SWCNT)は、直径が1〜2nm程度、長さがおよそ1μm以上であり、典型的な「
一次元量子細線」として取り扱うことができる。このように、ミクロとマクロの中間にある領域を「メゾスコピック系」と呼んでいる。この領域では「クーロンブロッケイド」や「バリスティック伝導」と呼ばれる、バルクスケールでは考えられないような現象が現れてくる。

 これまでは、幅が数nmしかない量子細線を作成するのに半導体加工技術を駆使していたが、それでも再現性のよい量子細線を作成するのは容易なことではなかった。ところがSWCNTが大量生産できるようになると、SWCNTの導電性が理論的に予測しやすいこともあって、SWCNTは量子細線の研究対象として一躍注目されるようになった。


 ここでは、メゾスコピック系で特有な単一電子輸送現象である、クーロンブロッケイドの原理について簡単に触れることにしよう。(メゾスコピック系の様々な現象は、解体真書シリーズ「メゾスコピックサイエンス」を参考に。)

 図では、量子細線であるナノチューブ(飛び飛び)をバルクな電極(バンド構造)ではさんだときのエネルギー準位を示している。

 A.電極のフェルミ準位が離散化されたナノチューブのエネルギー準位に整合する場合。電子はナノチューブを通して輸送される。

 B.電極のフェルミ準位がナノチューブのエネルギー準位の位置に来ない場合。電子は輸送されない。クーロンブロッケイドが起こる。

 C.Bの状態で電極にバイアス電圧をかけ、右端の電極のフェルミ準位を下げて電子を輸送する。

 D.Cよりさらにナノチューブにゲート電圧をかけて、一つ上のエネルギー準位で電子を輸送する。


 ナノチューブを一次元量子細線として利用し、そのバイアス電圧、ゲート電圧を変化させれば、電子
一つずつの輸送が可能になる。

 これにより、低電力で駆動する「
単一電子トランジスタ」の実現が期待されている。実際に、オランダのデルフト工科大学やIBMの研究チームが、SWCNTによる単一電子トランジスタの機能を実証している。(このことは「カーボンナノチューブ/応用:電子回路の実現」を参考に。)





発見の歴史 その他の性質