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分子ナノテクノロジー 分子の能力をデバイス開発に活かす
/ 化学同人


Chemistry of Nanomolecular Systems: Towards the Realization of Molecular Devices / Springer Verlag


Molucular Electronics II
/NewYork Academy of Science


Future Trends in Microelectronics: The Nano Millennium
/Jhon Wiely&Sons

     最終更新日;2002/10/16
 

  
イントロダクション
なぜ分子エレクトロニクスか?
単一分子素子とは何か?
さまざまな単一分子素子
集積化を目指して
リンク集

 
■分子エレクトロニクス
 - 単一分子素子とは?

 分子エレクトロニクスでは分子一つ一つから電子回路の素子をつくっていくことになるが、そもそも分子が素子になるとはいったいどういうことだろうか?ここで具体例を一つ挙げてみることにしよう。これは1974年にIBMのアビラム(A.Aviram)やラトナー(M.A.Ratner)が理論的に可能であることを示した
分子ダイオードである。ダイオード(整流素子)は電子回路の非常に基礎的なパーツである。(ダイオードについては「トランジスタ/トランジスタを理解するための前知識」などを参考に。)ダイオードの基本的な役割は、一方向にしか電流を流さないというものだ。ただし従来のダイオードと分子ダイオードとには大きな違いがあり、後者は「電流」(たくさんの電子・正孔の流れ)を一方向にしか流さないのではなく、「電子」一つ一つを一方向にしか移動させないということになる。

 下図にアビラムとラトナーが提唱した分子ダイオードを示す。この分子ダイオードはA(アクセプター、緑)とD(ドナー、青)が、I(絶縁体、赤)によってつながれた非対称な構造をしている。AとDはπ電子共役系になっており、非局在化した電子は比較的自由に移動することが出来る。Aは還元されやすく、Dは酸化されやすいという性質を持っている。つまり電子輸送から考えれば、Aは電子を受け取りやすく、Dは電子を提供しやすいというわけだ。

 では、この分子素子を電極に挟んで電圧をかけた場合どうなるだろうか?

 まず電極Tをマイナスに、電極Uをプラスにした場合を考えてみよう(@)。このとき電極Tから還元されやすいAへ電子が渡され、酸化されやすいDは電極Uから電子を引きぬかれる(A)。するとAはマイナスに帯電し、Dはプラスに帯電する(B)。これでは分子の内部で電子が偏って存在してしまうことになるので、Aの過剰な電子がDへ受け渡されて、元の安定な状態に戻る(C)。@からCのステップを通してみると、電極Tから電極Uへ電子が一つ移動したことになるわけだ。

 ではこれとは逆に、電極Tをプラスにして電極Uをマイナスにした場合はどうなるだろうか。電極TはAから電子を引きぬき、電極UはDに電子を与える。しかしこれでは、Aが酸化されDが還元されたことになり、分子は非常に不安定になってしまう。このような状態は取りにくい。そのため、先ほどとは逆方向に電圧をかけても電子輸送は起こらない。

 これがアビラムたちの提案した分子ダイオードの主な機能の説明である。こんな変な形をした分子がつくれるのかと思うかもしれないが、この程度の分子なら化学者はそれほど苦労せずに合成することができる。また望みとあらば、分子の側鎖を別のものに置き換えたりして、少しずつ電気的な特性を変えることもできる。このように欲しい素子の機能を決定したら、あとは化学者という分子のデザイナーに頼むことでたいていのものは合成することができる。


 ※分子素子を電極に挟む場合、電極がナノスケールのものか、もしくは従来の半導体素子のようにバルクスケールのものかで、分子素子の電気的な特性が大きく左右されることが最近の研究から分かっている。もしバルクスケールの電極につなぐ場合、バルクスケール電極は電子溜めのように働き、分子素子は上で説明したようには機能しなくなる。




なぜ分子エレクトロニクスか? さまざまな単一分子素子