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青色レーザーの実現の可能性が高いと考えられていたのは、U-Y系のセレン化亜鉛だった。

 科学者や技術者は、常に物理・化学法則の制約の元で思考錯誤するとは言うけれど、青色LED&レーザーの開発の歴史を考えるときほど、このことを思わずにはいられないものだ。青色LED&レーザーの開発が自然法則のもとで、いかに厳しい制約にさらされてきたか、今回の記事を読み進めていくことで明らかになってくるだろう。

 半導体の種類と光の関係について考えるとき、目安となるものがある。それは半導体のバンドギャップエネルギーだ。実際はこれほど単純でないにしろ、伝導帯の電子が価電子帯に落ちたときに発せられる光のエネルギー(つまり光の色)は、そのときのバンドギャップの大きさと関係がある。

 計算によれば、青色を得るために必要なバンドギャップエネルギーは3eV程度だとされている。ところが、90年代までに完成していたレーザーはGaAs系のもので、実現できた色は赤外から赤色可視までだった。そのバンドギャップは1.4eV程度だった。一般にバンドギャップというのは、半導体の種類に固有のものであるため、GaAs系のレーザーでは青色を得ることはできないことになる。

 そこでまずはバンドギャップのことを頭にいれて、青色の候補となりそうな半導体を探さなくてはいけなかった。もちろん、バンドギャップが青色に一致するからといって、技術的にレーザーを実現できる保証はどこにもないが、まずはバンドギャップあっての青色LED&レーザーだった。

 そこで浮上してきた候補は、II-VI半導体化合物である「
ZnSe(セレン化亜鉛)」と、III-Vの「GaN(窒化ガリウム)」だった。

 選択肢が二つできたわけだが、どちらを選ぶか?普通に考えるなら、自然の課す制約が緩やかに思われるものをえらぶものだろう。青色LED&レーザーの開発が始まったときには、すでに様々な理論予測によってZnSeのほうが有望だと考えられていた。

 もちろん有望とは言っても、自然の制約がまったくないわけではない。最初の研究課題は、LEDの最も基礎となるPN接合の実現だった。PN接合にはp型ZnSeとn型ZnSeを用意する必要があったが、当初はp型を有効に作る手段がなかったのだ。しかし1990年には窒素(N)をドープすることでp型を得られるようになりこの問題は解決した。こうして91年に米3M社が開発した青色レーザーは、77K(-196℃)という限られた条件下ながらも、半導体レーザーではじめて「青」(λ=450nm)を可能にした。さらに93年には、ソニーが室温でレーザー発振可能な青緑色レーザーの開発に成功している。ただし、その後改良が加えられたが、商品化できない理由があった。それは寿命の長さで、ZnSeを使ったレーザーでは、せいぜい数百時間しか光ることが出来なかったのだ。

 ZnSeレーザーの寿命が短い理由は、ひずみの蓄積に原因がある。ZnSeを使った半導体レーザーは、いくつもの層が積み重なった「多重量子井戸(MQW;Multiple Quantum Well)」とよばれる構造をとっているが、GaAs基板とn型ZnSe層との間で格子定数の違いから生じるひずみが層を重ねるごとに広がり、活性層(井戸層)の部分で致命的なひずみになってしまうためだとされている。(量子井戸、格子定数などは次に詳しく紹介する。)

 ZnSeレーザーについての話はこの当たりまでにして、次は「大穴」と考えられていた窒化ガリウム(GaN)について見ることにしよう。




イントロダクション 青色の候補は二つ - 「大穴」の窒化ガリウム