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ナノテクノロジーの最前線 アトムテクノロジーへの挑戦〈2〉電子スピンを見る操る
/日経BP


Semiconductor Spintronics and Quantum Computation
/Springer-Verlag




    最終更新日:2002/11/10
 

  
イントロダクション
スピンとは?
ハードディスクの成長を支えたGMR素子
メモリに必要な条件をすべて満たす MRAM
スピンFET 広がるスピントロニクス
リンク集

 
■スピントロニクス
 - スピンFET-広がるスピントロニクス

スピンFET
 DRAMやハードディスクに比べて、確かにMRAMは夢のデバイスといえるだろう。しかし半導体デバイスはメモリだけではない。最も重要なデバイスはトランジスタだが、現在スピントロニクスでトランジスタを実現しようという研究が盛んに行われている。

 スピンFETは1990年に、S.DattaとB.A.Das(当時はPurdure大学)によって提案された。このデバイスの構造は従来のFET(Feild Effect Transistor)によく似たものだが、やはり電子の電荷ではなく、スピンが主役となっている。下にスピンFETの構造とその動作原理を示す。

図.スピンFETとその動作原理

 このスピンFETではソースとドレインが強磁性体になっている。ゲート電圧を加えていない場合は、ソースから電子がスピンの向きを保ったままチャンネルを通過し、ドレインへと移動する。このように電流が流れるのはチャンネル内の電子スピンの向きとソースの電子スピンの向きが一致しているおかげである。一方、ゲート電圧を加えた場合は、生じた電場によりチャンネル内の電子スピンの向きがドレインとは逆になるので、電子の移動が起こりにくくなる。こうして電流が流れにくくなる。従来型FETではゲート電圧を加えると反転層ができて電子輸送が起こるわけだが、スピンFETはこれと正反対の動作になっているというわけだ。(MOS FETの動作については「トランジスタ」のページを参照。)

 このように従来型と類似点の多いスピンFETだが、電子の電荷ではなくスピンを採用することによって可能となった特徴があることにも注目したい。例えば、スピンFETは従来のものよりも動作に必要なエネルギーが少なくてすむとされている。従来のFETが電荷で電子を押し出していたのに対し、スピンFETは電子のスピンの向きを変えているだけだからだ。

 しかし、それ以上に大きなアドバンテージは、スピンFETは一つの素子で「トランジスタ+メモリ」の役割を果たせるかもしれないということだ。上図では、スピンFETのドレインとソースの磁化の向きが等しい場合を示したが、実際のところはそうなっている必要はなく、外部からの磁場でドレインのスピンの向きを変えてしまうことも可能だろう。そうすれば先ほどとは逆の動作原理になるというわけだ。しかも磁場を加えるのを止めても、ドレインなどの強磁性体のスピンの向きは保持される。つまりスピンFETのおかげで、書き換え可能な不揮発性電子回路が可能になるというわけだ。これが実現すれば、エレクトロニクス分野にとてつもないインパクトを及ぼすことになる。


乗り越えなければならない壁

 スピンFETの概念は10年以上も前に提案されたにもかかわらず、実は今でも室温で動作可能なものは実現していない。スピンFETを実現するためには、MRAMの場合とは違った大きな障害をクリアしなければならないからだ。

 これまでの話では、スピンデバイスとしてGMRヘッドやMRAMが登場したが、これらはすべて金属磁性体をベースに発展してきたものだった。しかしトランジスタのように、集積回路に組み込んではじめて機能するような素子は、半導体でスピンデバイスをつくる必要があるだろう。なぜなら、半導体ベースの磁性体を用いると、半導体基板と整合性がよくしかもエピタキシャル成長が可能であり、製造プロセスや集積化で有利だからだ。

 ところが半導体ベースのスピンデバイスを考えた場合、大きな問題が発生する。それは「スピン注入」に関する問題である。例えばDattとDasの提案したスピンFETの場合、ソースから半導体のチャンネルへ電子を注入するとき、接合面で電子が散乱されてしまい、電子の持っていたスピンなどの情報が失われてしまう。他にも半導体内部ではスピンの向きを維持するのが難しいという問題がある。

 そんなわけで室温で動作可能なスピンFETは実現していないが、「ムーアの法則」の限界がささやかれるようになった今、半導体スピンデバイスへの期待は高まっている。世界中で盛んに半導体スピンデバイスの研究が行われており、いくつものブレイクスルーが報告されている。ここでは、その中からいくつかの関連記事を紹介する。

2002年
 人工原子を量子コンピュータのメモリに NTTとJSTが確認 - ZDNet(2002/9)
 Injection of spin for electronics - PhysicsWeb(2002/8)
 スピン偏極共鳴トンネル効果を発見 スピン・トランジスタの実現に向けて道筋 - JST(2002/7)
 スピン偏極共鳴トンネル効果を発見 スピン・トランジスタの実現に向けて道筋 - 産総研(2002/7)
 Molecules take electronics for a spin - nature science update(2002/4)

2001年
 The World's Worst Compass Needle - Physcal Review Focus(2001/9)
 Lasers spin electrons into motion - TRN(2001/7)
 Spintronics turns a corner - PhysicsWeb(2001/5)
 Magnetic transistor means changeable chips - TRN(2001/3)
 A new spin on magnets - PhysicsWeb(2001/2)
 スピントロニクス レビュー - FED Online(2001)

2000年以前
 Semiconductors put spin in spintronics - PhysicsWeb(2000/3)

 Getting in a spin - nature science update(1999/12)



メモリに必要な条件をすべて満たす MRAM リンク集