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高分子エレクトロニクス―導電性高分子とその電子光機能素子化
/ コロナ社


導電性高分子のはなし
/ 日本工業新聞社

     最終更新日;2002/11/1
 

  
イントロダクション
有機トランジスタの基礎
プリンタブル集積回路、必要な技術
「ならでは」の応用例
今後の展望&リンク集

 
■有機トランジスタ、プリンタブル集積回路
 − プリンタブル回路、必要な技術

成形容易な高分子エレクトロニクス

 あたりの人工物を見まわしてみると、そのほとんどが合成高分子で出来ていることに気づく。あなたが着ている服も、今たたいているキーボードも、そして一見木目調の壁紙も実は合成高分子で出来ていることが多い。身の回りの人工物のほとんどが合成高分子から出来ているのにはいくつかの理由がある。そのなかでも重要なのが合成高分子の成形の容易さだろう。特にエレクトロニクス分野では、薄膜形成が容易だということがキーポイントとなってくる。

 薄膜形成は固体のものと液体のものとで製造プロセスが大きく異なる。

 シリコンエレクトロニクスの薄膜形成は前者の方で、蒸着法などのプロセスがとられている。蒸着というのはなかなかシビアなプロセスで、真空や高温などの条件を満たさなければならない。しかも技術的な要因から、直径300mmウエハなどというふうに非常に狭い面積に限られる。

 一方、有機エレクトロニクスでは高分子が溶解した液体状態なので、まるでインクをつけてスタンプを押したり、インクジェットで吹き付けたりと容易に薄膜を形成できる。それではこれらの技術について具体的な内容を見ていこう。


ポンっとスタンプで - マイクロコンタクトプリンティング

 チオール基(-SH)と金基板との間では特殊な化学結合が生じ、チオール基が整然と配列する「自己組織化膜(SAM;Self-Assembled Monolayer)」ができあがる。このアルカンチオール(RSH)をあたかもインクのように用い、金基板に転写するのが「マイクロコンタクトプリンティング(micro contact printing)」法である。この方法はハーバード大学のG.Whitesidesによって提唱された。

 具体的には次のようなプロセスを踏む。

@マスター盤の作成:電子線リソグラフィーやフォトリソグラフィーなどを用いてシリコンなどを微細加工し、高分子スタンプのマスター盤を作成する。
A溶解PDMSの塗布:液状のPDMS(polydimethylsiloxane)をマスター盤の上に塗布する。
BPDMSスタンプの完成:PDMSが固体化しマスター盤からはがすことで、高分子スタンプが完成する。
Cインクの塗布:高分子スタンプにアルカンチオールをインクとして付着させる。
D金基板にインクの転写:インクのついた高分子スタンプを金基板に押しつけ、インクを転写する。
E印刷:自己組織化膜が形成し、印刷が完了する。

 このマイクロコンタクトプリンティング法では、数ミクロンからサブミクロンという非常に微小な構造の作成が可能になるとされている。電界効果トランジスタではチャンネル長を小さくすることが性能向上につながるため、これがマイクロコンタクトプリンティング法の利点といえる。

 なお、マスター盤を作成するのにはリソグラフィーなどの従来の半導体微細加工技術を使用しなければならないが、いったんマスター盤が完成すればあとはそれを使いまわすことで比較的短時間で効率よく印刷が行われるとされている。

 この方法を採用して、E Inkと共同開発をしているベル研が電子ペーパーの有機駆動回路の作成に成功している。


家庭のホームプリンタでチップを印刷

 かつては、ハンダゴテを片手にラジオを分解して電子回路をいじくりまわす工作小僧がどこにでもいたが、最近ではその数もめっきり減ってしまった。ところが21世紀になって、別のかたちでそういった工作小僧が復活するかもしれない。しかし、ハンダゴテではなく、パソコンのプリンタを用いて…。

 最近では国内外のベンチャー企業を中心として、液状高分子をインクとしてインクジェット型プリンタで電子回路を描画してしまおうという試みがなされている。その方法について下図に示す。

図.インクジェットプリンタで有機電子回路を印刷(モデル図)

 これまでインクジェットプリンタを用いた方法では、印刷が「にじんで」微細な回路が作れないことが問題となっていた。しかし最近になって、英国のベンチャー企業Plastic Logic社が、疎水性のpolyimide(絶縁体)をスペーサー役として用いることで、微細な回路を鮮明に印刷することに成功している。

 国内では産業技術総合研究所ナノテクノロジー研究部門ハリマ化成と共同で、インク吐出量をフェムトリットル(市販のプリンタはピコリットルであり、フェムトはこの1/1000)にすることで、超微細回路の描画に成功している。
 従来の1/1000以下の微細液滴を吐出する「超微細インクジェット技術」を開発 - 産総研(プレスリリース 2002/4)

 また同研究所の光技術研究部門では、常温常圧下における簡易印刷プロセスで製造可能な「トップアンドボトムコンタクト型素子構造」を提案し、チャンネル長が0.5μmというサブミクロン領域の造形に成功している。
 印刷プロセスで製造できる有機薄膜トランジスタを開発 - 産総研(プレスリリース 2002/1)

 インクジェットを採用した方法は、マスクの作成などの複雑なステップを経ることなく直接描写が可能なため、製造プロセスの大幅な簡略化が図れると期待されている。また曲面印刷も可能など、従来の半導体微細加工では難しかった応用例が実現できるとされている。



"Roll2Roll"


新聞のように輪転機で集積回路を印刷
 ある意味、究極的なハイスループットの集積回路の印刷技術は、輪転機を用いて"roll-to-roll"に印刷していく方法だろう。米国のベンチャー企業Rolltronics社Iowa Thin Film Technologies社Alien Technologies社などが、こういった輪転機を用いた印刷方法を開発している。

 ただし、上の開発チームが用いているのは、有機分子ではなくアモルファスシリコンなどの無機非結晶である。ただ、高分子もたいていが非結晶であることや、最近では有機分子のキャリア移動度が向上しアモルファスシリコンに近づいていることなどを考えると、この技術は有機エレクトロニクスにも利用できるかもしれない。

 なお、このプリンタブル回路はシリコン単結晶のものとは性能で大きな差があるため、高密度集積回路のような用途には向かないとされている。ただし、制作コストが安価なことや薄型・フレキシブル化が可能なことから、RFIDタグ(次頁参照)やフラットパネルの駆動回路などの用途が想定されている。



有機トランジスタの基礎 「ならでは」の応用例