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ナノエレクトロニクス
更新: 2003/01/01
ナノエレクトロニクス

導電性高分子

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この「ナノエレクトロニクス」のホームページは、現在、サイエンス・グラフィックス株式会社がアーカイブとして管理しています。すべてのお問合せはサイエンス・グラフィックスまでお願いします。
また、このホームページは2003年までのもので、現在は内容的に古くなっている可能性がありますが、あらかじめご了承下さい。


イントロダクション

2000年に白川教授が受賞したノーベル化学賞の理由は、「導電性高分子の発見とその発展への貢献」というものだった。

ノーベル化学賞2000年 – ノーベル電子博物館

今ではこの導電性高分子(導電性ポリマー)は、携帯電話用電池やコンデンサ、帯電防止用フィルムなど、私たちが思っている以上に生活に浸透している。また、液晶ディスプレイよりも明るく視野が広いとして期待されている「有機ELディスプレイ」も、導電性高分子を応用したものだ。

以前では高分子が価値を見出せなかったような分野でも、導電性高分子の登場で、様々な可能性が生まれつつある。例えばコンピュータデバイス材料というのは、真空管がその役目を終えてからというもの、ずっとシリコンなどの無機結晶半導体の一人舞台だった。しかし導電性高分子の登場によって、必ずしもそうとは言えなくなってきたのだ。すべての部品がプラスチックからなるトランジスタ、あるいは簡単なコンピュータ回路も可能になりつつある(「有機トランジスタ&プリンタブル集積回路」を参照)。プラスチックならではのメリットはいくつも挙げられる。

それにしても、どういうメカニズムで高分子が電気を通すのだろう?普通の高分子はほとんど絶縁体のはずだが、どのようなことをしてやることで電気を通すようになるのだろう?今回はこの導電性高分子のメカニズムについて、主にポリアセチレンを例にしながら扱うことにしよう。

導電性は何に由来する?

電気を通すといってもその程度によって、導体(金属)、半導体、絶縁体などといくつかの種類に分かれる。電気をどのくらい通すかという目安に「導電率」というものがあるが、導電性高分子を含む様々な素材の導電率についての図を下に示した。

様々な物質の導電率

導電率σは、次のような簡単な関係式であらわすことができる。

σ=n×e×μ

eは電荷素量で変化するものではないので、注目すべきは「キャリア濃度」nと「キャリア移動度」μの二つということになる。この二つをもう少しわかりやすい言葉で言いなおすなら、電気の流れを担う電子や正孔(キャリア)の数はどのくらいあるのか、また、キャリアの通り道は動きやすいものかということになる。

導電性高分子の性質をつかむためには、キャリア濃度とキャリア移動度の二点から眺めるとわかりやすい。まずはキャリア移動度について考えてみよう。


キャリア移動速度-π共役構造


キャリア移動度、つまり電気の流れを担う電子や正孔が動きやすいほど、その高分子の導電率は大きいわけだが、いったいどのような構造がキャリアの動きやすさを左右するのだろう?

それは高分子の直鎖に「共役二重結合」があることが重要となる。共役系の分子というのは、ポリアセチレンのように炭素の単結合と二重結合が順番に繰り返している構造をもつ分子のことだ。

図で炭素原子と炭素原子を直接結んでいるのがσ結合、オレンジのπ軌道どうしを結んでいるのがπ結合。図では、炭素原子館にπ結合が2つあるように見えるかもしれないが、π結合は炭素原子館に一つだけ存在している。

例えば、ポリアセチレンのall-trans型の構造を見てみよう。ポリアセチレンの炭素原子はとなりの炭素原子と二重結合をつくっているが、そのうち一つは「σ結合」というエネルギー的に安定した強い結合で、もう一つは「π結合」という比較的弱い結合によって構成されている。そのためπ結合上の電子は動きやすい(非局在化)という性質をもっている。この導電率σは10-5(S/m)で、半導体の領域に含まれる。

ところがポリエチレンの場合は、直鎖がσ結合だけからで構成されていてπ結合を含まず、キャリア移動度は小さい。そのため導電率σは10-17(S/m)と絶縁体の領域に含まれる。ポリアセチレンとポリエチレンの導電率の違いは極端であることが分かる。

ただし、all-trans型のポリアセチレンには、キャリアの通り道は存在しているが、肝心のキャリアが存在していないのだ。それは、すべての電子が結合に使われてしまって、自由に動けるあまりの電子がほとんど存在していないからだ。キャリアがいなければ電気は流れない。トランス型ポリアセチレンも純粋なままではほとんど電気を通さないのだ。そこである仕掛けをすることによって、ポリアセチレンのキャリアの数を増やし、導電率を大きく上昇させることができる。その仕掛けというのが次のページで取り上げる「ドーピング」なのである。

キャリア濃度-ドーピングでキャリアを注入

銅や銀などの導体(金属)の場合、原子核の影響から比較的自由に動くことのできる電子(自由電子)が多く存在していて、結晶中をデタラメに動き回っている。導体に電圧をかけてやればその向きに沿って電子が移動し、電気を通すことになる。

一方、シリコンなどの半導体は純度が高い場合、ほとんどといってよいほど自由電子が存在していない。下に示すシリコンの図のように、最外殻電子をすべて使って頑丈な結晶格子をつくるために、自由に動くことのできる電子が残らないからだ。キャリアがなければ電気は通さない。

不純物を含まないシリコンの単結晶。自由に動ける電子を持たない。

そのため半導体デバイスなどをつくるときには、わざと半導体に導電不純物を加えてキャリアを注入してやる。これをドーピングといっている。下の図は、シリコンに価電子の多いリンを加えてやり、自由電子を増やしたときの場合だ。これによって余分に自由電子が存在することができる。(詳しいことは「半導体」を参照。)

不純物のリンを加えることで自由電子が存在している。

普通は導電性高分子の場合も、無機結晶半導体のようにキャリアをほとんど持っていない。そのため、ドーピングによってキャリアを注入してやらなくてはいけない。ただし、無機結晶の半導体と似ている点もあれば異なる点もあるので注意が必要だ。

ドーピングには正孔を注入してやる酸化(p-ドーピング)のものと、電子を注入してやる還元(n-doping)の二種類がある。

ドープ一覧表

アクセプター(p-ドーパント)
ハロゲン Cl2, Br2, I2, ICl, ICl3, IBr, IF3
ルイス酸 PF5, AsF5, SbF5, …
ドナー(n-ドーパント)
アルカリ金属 Li, Na, K, Rb, Cs
アルカリ土類金属など Be, Mg, Ca, Sc, Ba, Ag, Eu, Yb

ドープ後のソリトン

ポリアセチレン(all-trans型)をヨウ素(アクセプター)で酸化した場合について、下のフラッシュアニメーションを参考にしながら詳しく見てみよう。とくに、ドープ量を増やしていった場合、どのような変化が起こるかに注目するとよいだろう。

ポリアセチレンとドーピング

π電子は1/2のスピンをもっているので、中性ソリトンのスピンは1/2だったのに対し、この場合はπ電子が引き抜かれたために、スピンは0、荷電は+1となる。これを「正荷電ソリトン」と呼んでいる。

一方、ナトリウムのようなドナーでドーピングしてやると、カルバニオンになり、スピンは0、荷電は-1の「負荷電ソリトン」となる。

中性ソリトンの場合と異なり、荷電がゼロでない正荷電ソリトンと負荷電ソリトンが導電キャリアとなって、導電性に大きく寄与する。

ソリトン、ポーラロン、バイポーラロンの特性

ソリトン ポーラロン バイポーラロン
中性 正荷電 負荷電 正荷電 負荷電 正荷電 負荷電
荷電数 0 +1 -1 +1 -1 +2 -2
スピン 1/2 0 0 0 1/2 1/2 0

荷電ソリトンと中性ソリトンが結合すると、カチオンラジカルやアニオンラジカルが発生する。これをポーラロンと呼んでいる。ポーラロンには磁性が発生する。さらにポーラロンの濃度が高くなると、ポーラロンどうしが結合してバイポーラロンとなる。このあたりの詳しいことは、ノーベル財団のホームページを参考に。

The Nobel Prize in Chemistry, 2000: Conductive polymers(pdf)

– nobel e-museum

http://www.nobel.se/chemistry/laureates/2000/chemadv.pdf

応用例1:バックアップ電池、機能性コンデンサ

●ポリアセン/PAS電池

ポリアセン系半導体(PAS;PolyAcenic Semiconductive material)は、フェノール系樹脂を熱処理して得られる物質である。

ポリアセチレンなど他の導電性高分子と同様に、PASもp/nドーピングによって導電率が上昇し、また脱ドーピングも可能である。さらに、PASは空気中でも比較的安定である。また、上図に示すような分子構造を基本としているが、実際はそのようなきれいな骨格をもっているわけではなく、グラファイトのようにグラフェンシートが積み重なったような非結晶構造をとっている。そのため、三次元的に隙間が多く、大量のイオンをとり込むことが可能である。

以上のような性質から、PASはかなり以前から2次電池などへの応用が試みられてきた。今では、携帯電話やさまざまなモバイル機器のバックアップ用として、PAS電池は広く普及している。多少地味な感じはあるが、導電性高分子で最も経済効果の大きい応用分野の一つである。

上図に示すキャパシタタイプのPAS電池では正負両極にPASが使われており、電解液中のイオンでPASのドーピング、脱ドーピングが行なわれ、これによって充放電が行なわれるという仕組みになっている。

さらに最近では、リチウムイオン電池の次をになう高エネルギー電池として、高性能PAS電池(リチウムイオンタイプ)の開発が進んでいる。

モバイル時代にシェア拡大。世界初のオールポリマー電池。 – カネボウ

ポリアセンキャパシタ – カネボウ

●ポリピロール/高機性コンデンサ

近年、情報処理のデジタル化や高周波数化、モバイル情報機器の爆発的な普及を背景に、小型軽量で大きな容量をもち、かつ高い周波数に対応できるコンデンサが要求されるようになってきた。この2つの要求に答えるものとして、ポリピロールなどの導電性高分子を電解質とする機能性高分子コンデンサが登場した。

コンデンサの基本的な構造は、二枚の向かい合った電極に誘電体がサンドイッチされたものとなっている。この誘電体の誘電率が高いほど、そして面積が広く薄いほど大容量コンデンサが可能になる。ところが従来のコンデンサの電解質には半導体MnO2(二酸化マンガン)が使われており、基本的に誘電率は10-2~10-1S/cmmと小さく、コンデンサの内部抵抗が大きかった。とくに大容量を得るために表面積を増すほど内部抵抗は大きくなるという問題があった。

そこでコンデンサの電解質に、誘電率の高い(10~100S/cm)ポリピロールを用いることでコンデンサの内部抵抗を小さくすることが可能になった。結果として従来より2桁近い高周波数領域に対応できるコンデンサが実現するようになった。こうして高周波の信号やノイズに応答できるようになったことで、機能性高分子コンデンサはパソコンや携帯電話などの最先端機器に搭載されている。機能性高分子コンデンサも、PAS電池同様にやや地味な応用例ながら、現在の情報化社会において一定の役割を果たしている。

導電性高分子系チップタンタル(Ta)コンデンサ – NEC Tokin


応用例2:有機EL、高分子LED

●ポリフェニルビニレンなど/有機ELディスプレイ

機能性コンデンサやPAS電池などが導電性高分子応用の第一世代だとすれば、「有機ELディスプレイ(OEL)」は第二世代として最も注目されている。このディスプレイの発光原理は、ポリフェニレンビニレン(PPV;poly(phenylene vinylene))などの導電性高分子に電気を通すと光を発する「エレクトロルミネッセンス」に基づいている。自発光であるため、省エネという売り文句で広く普及している液晶ディスプレイ(LCD)と比べてもエネルギー効率の面で優れており、視認性などでもLCDよりも優れているとされている。さらに発光層は固体(ソリッドステート、solid state)なので、フレキシブル(折り曲げ可能)なディスプレイも可能とされている。OELはそのポテンシャルの高さから、LCDに変わる次世代ディスプレイとして多いに期待されている。

PPVを用いた有機ELディスプレイの原型は、1990年にケンブリッジ大学のR.Friendの研究チームのJ. Burroughesらによって作製された。このディスプレイは、二つの電極にPPVなどの導電性高分子を挟んだ構造になっている。ただし、有機分子層の光をそとに取り出すために、電極のうち一方にはITO(Indium Tin Oxide,スズをドープした酸化インジウム)という透明電極が使われている。基本的な発光原理は、従来からある無機結晶の発光ダイオードと似ており、有機分子層のなかで電子と正孔(ホール)が再結合することで、生じたエネルギーが光として放出されている。

なお、有機ELディスプレイは、高分子のものだけではなく、アルミニウムキノリノール錯体(aluminato-tris-8-hydroxyquinolate (Alq3))のような低分子のものもある。低分子と高分子を使ったものとで、製造過程などにいくらかの差があるが、現時点では両者に優劣をつけるのは難しい。

有機ELディスプレイについては、別のページで詳しく解説している。

応用例3:有機トランジスタ、プリンタブル回路

ポリチオフェンなど/有機トランジスタ、プリンタブル回路

10年ほど前までは、導電性高分子の応用分野といえば、帯電防止トレイ、機能性コンデンサなどやや地味なものばかりだった。ところが最近では、いよいよエレクトロニクスの中枢部分にまで活躍の場を見つけるようになってきた。それが前のページで紹介したディスプレイであったり、ここで紹介する有機トランジスタ・プリンタブル回路だったりする。

確かに、電子の移動速度などのポテンシャルでは、導電性高分子はシリコンに取って代わることはできないが、無機結晶のシリコンではあり得ない性質、例えば軽くてフレキシブルといった性質から、薄膜化が可能だったり、曲面に電子回路を書き込むことも可能になる。現在、世界中の大学やベンチャー企業がこぞってさまざまな分野に導電性高分子の可能性を探っている。

●有機トランジスタ

シリコン等の無機半導体材料ではなく、導電性高分子などの有機材料を用いた薄膜トランジスタである。印刷工程により薄くて軽いフレキシブル基板などに形成することが可能であるため、有機ELや電子インクなどの駆動回路、電子タグなどへの応用が期待されている。

有機半導体の移動度は無機半導体に比べ大きく劣るため、これまで十分な性能は得られなかったが、1997年になってベル研のグループなどが実用に耐えうるような性能を持ったトランジスタの試作に成功し、再び注目を集めている。

Printing Plastic Transistors – ベル研Lucent社(1998)

●プリンタブル回路

従来のシリコンを中心とした半導体産業では、回路パターンを形成するのに、フォトリソグラフィーや真空蒸着など製造コストのかかるプロセスが何段階もわたって必要だった。(詳しくは「ICチップができるまで」を参照。)しかし、導電性高分子を「インク」として利用することで、インクジェット技術やスクリーニング技術などにより、基板上に直接回路パターンを形成することが可能になりつつある。

低温で処理することが可能であるため、プラスチックなどのフレキシブル基板に印刷することが可能で、有機トランジスタ、有機LED(有機EL)電子ペーパーなどへの応用が試みられている。

この方法は非常に簡便で、設備投資も抑えられ、回路設計から試作までの時間が大幅に短縮できる。この性質から、多品種少量生産などの用途にも向いているといえる。

有機トランジスタとプリンタブル回路については別ページで詳細を扱っている。

リンク集

ナノエレクトロニクスから

半導体

有機ELディスプレイ

液晶ディスプレイ、LCD

アモルファスシリコン&ポリシリコン

有機トランジスタ&プリンタブル集積回路

外部サイトから

白川博士へのインタビュー – e-Sciece

現代の錬金術 – 電気を通すプラスチック – 東京電力科学情報誌ILLUME

ノーベル化学賞2000年 – ノーベル電子博物館

Electric plastics – mechanical engineering

New Printing Technologies Raise Hopes for Cheap Plastic Electronics – Physics Today

Bright Future for Plastic Valley – frost.com

The Promise of Plastic Transistors – Business 2.0