このサイトは現在、サイエンス・グラフィックス(株)が管理しています。
お問合せはこちらまで。

トップページ気になる科学ニュース調査
気になる科学ニュース調査

Contents
トップページ
バックナンバー
コラム投票
メルマガ登録

Service
私の気になる科学ニュース
科学ニュースヘッドライン(英語)

Information
サイトについて
掲示板
フィードバック


気ニナる
家庭のコンセントから宇宙へ繋がる 宇宙太陽光発電衛星構想




テレビや携帯電話のように電磁波で情報を送るというのはありふれた発想ですが、電磁波の一つであるマイクロ波で電気を送るという計画はあまり聞いたことがないかもしれません。宇宙に太陽光発電所をつくり、そこから電気をマイクロ波で地上に送ろうというのです。20年ほど前に騒がれ、しばらく沈黙状態にあった計画ですが、また最近になって多くの国の政府の関心を集め始めているのです。しかしなぜ?

この記事では
宇宙には太陽光発電所を 地上へはマイクロ波で
コロラドの丘からパリの電球を灯らせる?
家庭のコンセントが宇宙へつながる
オイルショック好転がもたらした方向転換
再び政府の目にまぶしく映りはじめたSPS
     という内容で構成しています。
 
宇宙には太陽光発電所を 地上へはマイクロ波で

 天気をまったく気にする必要がない宇宙空間に太陽光発電所をつくり、つくった電気はマイクロ波に変換して地上に送り、再びそれから電気を取り出して利用する…。

 太陽光に始まり、電気、マイクロ波、そして電気と、エネルギーのかたちをめまぐるしく変えながら、太陽エネルギーを効率よく利用しようというわけです。確かにこれならほとんど無公害で、実質上エネルギー資源の枯渇に悩まされることもありません。


一般的なSPS構想のモデル。太陽光に始まり、電気、マイクロ波、電気とエネルギーの形式をめまぐるしく変えて、太陽のエネルギーを地上に届けます。

 このプロジェクトは宇宙太陽発電衛星(SPS: Solar Power Satellite) 構想と呼ばれるもので、ちょうどオイルショックが深刻な問題だった70−80年代に、しきりに騒がれていたものでした。

 それからしばらくの間、この構想のことを耳にすることはありませんでしたが、このプロジェクトが最近になって、日本も含めた多くの国の政府に注目され始めているのです。しかし、なぜ今になって再び注目されるようになったのでしょうか?


 そこで今回は、この20年間でSPSを取り巻く事情がどう変わってきたのかを、この構想で重要な位置を占めているマイクロ波送電の研究の歴史とともに見てみることにしましょう。




コロラドの丘からパリの電球を灯らせる?

 このSPSは発電所が地上ではなく宇宙にあるという時点で、他のものとまったく違うものなのですが、それを可能にしているのはマイクロ波送電という技術です。

 マイクロ波とはラジオ無線、赤外線、可視光、紫外線、X線、それにガンマ線などと同じように、電磁波の一部分に属しています。このように電磁波にはさまざまなタイプがありますが、まったく違ったものというわけではありません。結局どれも移動速度は同じくらいで、異なっているのは周波数(したがって波長も)くらいです。可視光などは私たちの目で直接見ることができるため、なんとなく特殊なもののように思えるかもしれませんが、物理の視点だけからみれば他の電磁波と比べて特別に何かが面白いわけではありません。

 ただし、私たちがこの電磁波を積極的に利用する場合では、それぞれの周波数に応じて区別して利用してきました。確かにこの点では、どの電磁波が面白いかなどといったことが言えるかもしれません。波長に合わせて、ラジオやテレビ放送、携帯電話、レーダーにレーザーといった具合です。そして基本的には、今までこれらの電磁波は、主に情報伝達の手段として利用してきました。

 ところがこのSPSの場合、電磁波であるマイクロ波を、情報ではなく電気を伝送する手段として利用しようとしているのです。電子レンジはマイクロ波をつかってものを温めていますが、あれは直接マイクロ波を熱に変えてしまっていて、遠距離で電気を伝送しようというものではありません。


 電磁波を電気を送る手段として利用する発想はそれほど新しいものではありません。マクスウェルが電磁場を数学的に予言した19世紀末、多くの科学者が電磁波の積極的な利用方法を思考錯誤していました。そのなかでも科学者テスラは、コロラド州にあった大きな鉄塔からパリまでマイクロ波をつかって電気を送り届けるという実験を行ったのです。その実験が成功したのかどうかは詳しく記録が残っていないためハッキリしませんが、一般的にはうまくいかなかったと考えられています。

 いずれにしても、テスラの実験以後は、マイクロ波送電が真剣に考えられることはほとんどなくなり、それ以降はマイクロ波は電気ではなく情報を送る手段として認識されるようになりました。




家庭のコンセントが宇宙へつながる

 では、実際にマイクロ波を使って電気を送ることに成功したのはいつ頃なのでしょうか?それは、第二次世界大戦も終わった64年のことでした。

 アメリカのRaytheon社の研究員ウィリアム・ブラウンらが中心となって、ヘリコプターをマイクロ波によるエネルギー伝送によって飛ばすという実験に成功したのです。もっともヘリコプターと言っても、マイクロ波を受けるアンテナ部分にプロペラをつけただけの非常に簡単なモデルでした。
(William Brownとヘリコプター実験の写真↓)
http://www.mtt.org/awards/WCB's%20distinguished%20career.htm

 それでもプロペラを回して自重を持ち上げるのに必要なエネルギーを、離れたところからマイクロ波によって供給することができることを証明したのです。

 このヘリコプターの装置で重要となるのが、マイクロ波を電気に変換する「レクテナ(rectenna, Rectifing anTENNA)」と呼ばれる装置です。離れた位置にある送電アンテナから送られてきたマイクロ波を網目状のアンテナでキャッチし、それを整流ダイオードで直流電流として取り出すことができるのです。

 ヘリコプターが飛ぶためには、このレクテナが少しでも軽量でなければなりませんし、どれだけ効率よくエネルギー変換できるかも重要になってきます。そのためブラウンらは改良を重ねて、マイクロウェーブから直流電流へ変換する効率を80%以上にまで高めました。


 その後、このマイクロ波伝送の技術を前提として、SPS構想がピーター・グレイザーによってはじめて提唱されました。グレイザーがこの計画を提唱してから数年後、オイルショックがおこり、アメリカ政府は新しいエネルギー候補としてこの計画を注目するようになりました。

 こうして政府主導のかたちでSPS計画を進行させていくことになります。このときNASAもアメリカエネルギー省(DoE)の指導のもとでこのプロジェクトに参加していました。そして、このアメリカの研究に触発されるかたちで、日本を含めた他の多くの国の政府や企業が、この宇宙太陽光発電の研究開発をはじめました。




オイルショック好転がもたらした方向転換

 オイルショックによって勢いづいたかのように見えたSPSプロジェクトでしたが、オイルショック問題が意外にも早いうちに好転したため、壮大過ぎて予算をくうこの計画は、じきに政治的な関心が失われていきました。しかもちょうどその頃は、原子力や核融合といった新しいエネルギーの方が注目され始めた時期でした。そのため、どこの国の政府も関心はSPSから原子力・核融合の方へと移ってしまったのです。このため80年代の中頃にはSPSは下火になってしまいました。

 それに伴って、このマイクロ波送電に関する研究の目的は、SPSのような基幹エネルギーとしてではなくて、飛翔体を長時間にわたって空中に滞留させるためのエネルギー供給源に移っていきました。この飛翔体は、地上10kmから200kmまでという広い間で、広域放送の中継ポイントや大気中のCO2の観測装置などとしての利用が考えられていました。


 ちょうどそのころから、マイクロ波送電の研究に関しては、特に日本とカナダがアメリカと独自の研究路線をとるようになっていきました。例えば83年と93年に、日本の研究チームはアメリカに先駆けて、地上から150〜200kmの電離層で、親ロケットが子ロケットに向けてマイクロ波を放射し、子ロケットのエネルギー供給を可能にするという実験を成功させました。(83年MINIX,93年ISY-METS)

 これによって、電離層でも10ギガHz以下ならば、大気によるマイクロ波の減衰はほとんど無視できるレベルだということもわかりました。

 他にも、日本の研究チームは、地上でいくつかのマイクロ波送電の実験を成功させています。その一つが、小型モデル飛行機にレクテナを取り付け、地上から10-15mくらいの高さで飛ばし、下から追尾自動車でマイクロ波を放射するという実験で、そのモデル飛行機を飛ばすことにも成功しています。(92年 MILAX)
(それぞれの実験の詳しい説明は下で紹介した関連サイトを参考に)

 SPSといった派手さはないにしろ、このマイクロ波送電の技術は、SPS構想が沈黙していた80年代後半から90年代の間に確実に培われていきました。



再び政府の目にまぶしく映りはじめたSPS

 SFの話などと言われて、専門家の間であまり話題に上ることのなかったSPS構想ですが、ここ数年でその事情は変わってきました。

 基幹エネルギーとして考えるなら、設計や打ち上げのコストすべてを考慮に入れて、全体でどれだけの効率が上げられるかが重要になってきますが、この面でもずいぶん改善されてきたのです。80年代では技術的に見ても、SPS構想はあまりにも非現実的でしたが、マイクロ波送電の研究ように確実に技術が進歩してきたからです。

 他にも、80年代ではエネルギー変換効率が7-9%程度しかなかった太陽電池が、最近では50%を超える値を出していますし、その制作コストもずいぶんと下がっています。また、重量を小さくして打ち上げのコストを削るために、太陽電池を薄膜状にする研究も行われています。

 そして宇宙太陽光発電で最もコストのかかる打ち上げの部分についても、日本で省コストのH2Aロケットが打ち上げられているように、20年前と比べれば驚くほど改善されてきました。

 それに社会的な背景も無視できない大きな要因となっています。一度はSPSの政治的な関心を持ち去ってしまった原子力や核融合発電ですが、逆にこれは安全面などの問題で世界規模で縮小へ向かっています。しかしだからといって、それに変わる有力な発電方法があるかと言われれば、残念ながらないのです。だからこそ、基幹エネルギーとしてこのSPS構想が期待されているのです。

 確かにSPS構想でも、高エネルギーのマイクロ波を送るという点で、人体や環境への影響は否定できません。現時点では、携帯電話の電磁波が人体にどの程度の影響を与えるのかさえハッキリしない状況にあります。ただ、このSPS構想の場合は、マイクロ波をキャッチするレクテナを人口集中地域から離れた孤島や砂漠などに設置して、そこから電線で送るという方法をとれば、ずいぶん影響を避けることができるでしょう。

 むしろ、この構想の最大の課題は、いかにコストが押さえられるかということにあるといえそうです。現時点では、地上で発電したときのコストが1キロワットあたり9円であるのに対し、宇宙発電は23円となるなど、これからもさまざまな方向から技術開発を重ねていく必要があります。

 こういった背景から、今年の始めに日本政府はこのSPS構想を見直し、新たに資金投入することを決めました。アメリカでも95年ごろからSPS構想の見直しが行われ、再びこの分野の研究が活発になりつつあります。アメリカの場合は、NASAがこの太陽光発電を宇宙開発の足がかりとして大きく期待しているなど、国によってSPS構想の目的や期待感に温度差がありますが、再度注目され始めているのです。


              
関連サイト

宇宙太陽発電所 SPS構想とは? - 京大
 日本でマイクロ波送電の研究をしているのは、この京大の研究チームと下の神戸大の研究チームなどがあります。本文で紹介したプロジェクトの詳しい説明。
 ・MINIX (Microwave Ionosphere Nonlinear Interaction eXperiment)
 ・ISY-METS (International Space Year - Microwave Energy Transmission in Space)
 ・MILAX (Microwave Lifted Airplane eXperiment)


賀谷研究室 - 神戸大

太陽光発電 - スペース百貨NASDA

エネルギー政策の重点課題に関する見解 - 経団連
 経団連までもこの宇宙太陽光発電に期待しています(?)。さて宇宙太陽光発電の文字はこのページのどこにあるかな?

●以下のサイトはだいたい本文の内容の順に並べてあります。

Electromagnetic Spectrum - NASA(英語)
 電磁波について。

Colorado Springs - PBS(英語)
 コロラド・スプリングでのテスラのマイクロ波送電実験。詳しい。

Bill Brown’s Distinguished Career - MTT(英語)
 ウィリアムブラウンのヘリコプターについて

Rectenna - SpaceFuture(英語)
 レクテナについて。

SHARP - CRC(英語)
 カナダが87年に成功させた、マイクロ波送電による飛行実験

Beam it Down, Scotty! - NASA(英語)

Bright Future for Solar Power Satellites - Space.com(英語)

Japan Plans To Launch Solar Power Station In Space By 2040 - SpaceDaily(英語)
 今年始め日本政府がSPSの計画を見直したときのニュース。

になる_科学ニュース

もちろん他にもいろんな科学コラムがあります。
ぜひ、そちらもよんでください。
バックナンバー紹介を見てください。