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超低温の世界は量子ワンダーランド

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---超低温でのみ現れる物質の第5番目の状態、「ボーズ・アインシュタイン凝縮」は、非常に興味深い現象です。例えば、BECでは、量子的な性質がほとんど同じになるため、複数の原子集団が一つの原子のような振る舞いをします。他にも超伝導や超流動という異様な振る舞いもこのBECが関わっていると考えられています。最近では、ブラックホールや超新星との類似が指摘されています。さらに原子レーザーなどは、今大きく発展しているナノテクノロジーなどに大きな貢献をするでしょう。BECはここ数年で最も大きく成長した物理の研究分野です。---


この記事では
 物質の5番目の状態の魅力
 70年前の偉大な予言
 BEC実現への長い道のり
 BECを見れば誰だって原子レーザーを思いつくけど…
 超低温でのもうひとつの奇妙な状態
 研究室と宇宙をつなぐBEC
     という内容で構成しています。
 
物質の5番目の状態の魅力

 たいていの物質には5つの状態があります。まず3つの状態は誰でも知っている固体、液体、気体です。そして4番目の状態がプラズマと呼ばれるもので、あまり意識していないかもしれませんが、炎や蛍光灯といった高温に見ることができます。宇宙で目に見える物体のほとんどはこのプラズマです。

 そしてほとんどなじみのない5番目の状態、それが「ボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC:Bose-Einstein Condensation)」と呼ばれるものです。これは絶対零度に限りなく近い条件でしか見ることができません。この状態では、それまで自由気ままに飛び回ったり振動したりしていた原子が、急に集団で同じ振る舞いをはじめるのです。原子の集団というよりは、むしろ、全体で一つの大きな原子と考える方がよいでしょう。

 しかも驚いたことに、このBCEのような極端な状態は、おそらく今の宇宙のどこを探しても存在しないと考えられています。宇宙には星の光のほとんど届かない極寒の地が多く存在しているのにも関わらず、いくつかの研究室を除いて、このBCEは宇宙のどこにも存在していないというのです。話としては面白いのですが、では、こんな極端な状態を研究することに何の意味があるのでしょうか?

 実はこのBCEを研究することは、まだまだ荒削りな部分の多い量子論を深めていくという意味や、他にも実用的な面として、このBECから原子レーザーや「原子」顕微鏡、それに高度な原子時計など、将来の技術で重要な「ものさし」となるものをつくるという意味もあります。

 それに宇宙に存在しないような状態とはいっても、超新星やブラックホールなどの現象と興味深い類似を示していることも明らかになってきました。厳密には同じでないにしても、かつて光の性質を知るために水面の波との類似性を研究してきたように、このBECも超新星やブラックホールといった宇宙の現象の解明に大いに役立つだろうと考えられているのです。

 そこで今回は、このBECがいったいどういったもので、今後どういった論理を展開していくのに役立っていくのかということなどを、ざっと眺めてみることにしましょう。




70年前の偉大な予言

 先日のノーベル物理学賞で、このBECに関してが取り上げられましたが、これは95年にこの凝縮状態を再現するのに貢献した科学者に与えられたものでした。BECは6年程前にはじめて再現できるようになったのですが、その存在自体は理論の上でかなり昔から知られていました。

 まだまだ量子物理が駆け出しだったころの1924年に、物理学者S.N.ボーズがアインシュタインにBECのもととなる考えをつづった手紙を送ったことにはじまります。アインシュタインはこの手紙の内容を一般化して、さらに発展させました。

 量子の世界では、粒子に波の性質が強く現れてきて無視できなくなります。ただし、普段はこの影響を無視することができます。例えば室温の気体の原子は激しく熱運動をしているので、原子どうしが十分離れていて、それぞれのもつ波の性質が影響し合うことはほとんどありません。そのため原子は、古典的なボルツマン分布と呼ばれるかたちを取っています。(詳しくは次の項目で紹介する「ボルツマン分布とコーヒーが冷める理由」を参考に。)

 ところが温度を下げていくと、原子の運動は鈍くなり、お互いの距離が小さくなります。その距離が物質波のより短くなると、お互いの物質波は「重なり合い」ます。こうなると、それまで別々の振る舞いをしていた原子が、みな量子的に同じ状態になり、一つの波動関数(波動関数とは大雑把にいうと原子が見つかる確率を示す関数)で表せるようになるのです。この凝縮状態は一つの「超原子(superatom)」となるのです。これがアインシュタインの予言したBECでした。

 こうして、アインシュタインたちの考えは拍手喝采で受け入れられて、物理学の重要なところで度々引用されるようになったのですが、結局その予言から70年近くたつまで、この凝縮状態が存在する確かな証拠が示されることはなかったのです。

 もっとも、30年代頃に発見された液体ヘリウムの「超流動」には、BECとの関係があると考えられていました。超流動とは、超伝導と同じように、液体が内部摩擦(この場合は粘性)なしにいつまでも流れている現象のことです。ただ、超流動は液体であるために原子間での相互作用が大きく、アインシュタインの予言していたような理想希薄気体のBECとは言えませんでした。




BEC実現への長い道のり

 しかし考えてもみれば、温度を下げていけば、気体は液体や固体になるものです。ましてや絶対零度で、物質が気体で存在していることの方が異様に思えてきます。つまり、BECを実現するためには、一見相反するような二つの条件を一度に満たさなくてはいけないのです。これがBECの実現に、技術的にも大きな障害となりました。

 この二つの条件の難しい組み合わせを実現させるためには、直感的にも、何か一つの方法で行うのではなく、二つ以上の技術を組み合わせなくてはいけないことが、なんとなく分かるかもしれません。実際、BECの実現にはさまざまな技術を組み合わせています。

 大まかに言うと、温度を絶対零度近くにまで下げる技術と、原子の集団を希薄気体の状態で保っておく技術の二つが必要になります。この研究は、80年代からようやく本格的にはじまりました。


 まずはじめに磁場をかけて捕らえることで、原子を気体状態のままで保っておきます。そして、レーザーを使ってその希薄気体の温度を下げてみました。これによって絶対温度より数ミリ度高い程度まで冷やすことができるのですが、それでもBECには達しませんでした。

 そこで、さらに別の方法が必要になります。それは「蒸発冷却」(evaporating cooling)などと呼ばれる方法ですが、何のことはない、この基本的な原理はコーヒーが冷める理由とほとんど同じです。


拡大図&説明を見る

ボルツマン分布とコーヒーが冷める理由
 コーヒーの冷める理由なんて何とでも説明できそうですが(実際できる)、先ほどのボルツマン分布に注目すれば、いくらか詳しい説明ができます。(「ボルツマン分布とコーヒーが冷める理由」のモデル図←)


 一定の温度で熱運動をしている原子(コーヒーの場合は水分子)は、確率的にはほとんどの原子が平均エネルギー値の付近に集中していますが、かなり幅広いエネルギーに分布しています。これがボルツマン分布です。このうち、蒸発に必要なエネルギーをもった原子は、他の原子との結合を打ち切って外へ飛んでいってしまいます。ただし、残された原子も熱運動をしているので、ビリヤードの球のように激しくぶつかり合い、再び新しいエネルギー分布をとります。これを繰り返すうちに、外へ飛んでいける高エネルギーな原子はほとんど存在しなくなります。低エネルギーな原子ばかりが残り、全体としての平均エネルギー値も下がって温度が下がるというわけです。こうしてコーヒーは室温と同じ温度になり、まずいコーヒーの出来あがりというわけです。

 コーヒーのときと同じように、蒸発冷却法でも、凝縮状態にある原子の集団から、高エネルギーなものばかりを外へ弾き飛ばしてしまって、凝縮全体の温度を下げるのです。ただし、コーヒーのときとは違って、一ひねりする必要もあります。


(BECを実現する一般的な装置のモデル図→)

拡大図&説明を見る

ボーズアインシュタイン凝縮をつくる標準的な装置


 それは、磁場でトラップしている原子を取り除くために、凝縮状態の表面にある高エネルギーな原子に振動を伝えて共鳴させ、その原子のスピンをひっくり返してしまうのです。磁場と仲良くやっていた原子のスピンが突然ひっくり返ったために、磁場によってその原子は弾き飛ばされてしまいます。こうして蒸発冷却で、絶対零度から数ナノ度ほどの超低温が可能になったのです。

 一つ一つの技術はどれも目新しいものではないのですが、例えばレーザー冷却は希薄気体に向いているのに対し、蒸発冷却は濃縮気体に向いているなどと、互いに相性がいいとは言えず、それぞれの方法をうまく組み合わせていくことが非常に難しかったのです。

 今年のノーベル物理賞は、これらの方法をうまく組み合わせて95年に初めてBECを実現するのに貢献した、米国立標準技術研究所(NIST)のEric A. Cornell、米Massachusetts工科大学のWolfgang Ketterle、そして米コロラド大のCarl E. Wiemanに与えられました。

 こうしてBECが実際に再現できるようになってからというもの、すぐにこのBECの研究は物理の大きな一分野を占めるようになり、これまで実験で確かめることのできなかった議論の検証や、まったく知らなかったような現象の発見につながっていきます。





BECを見れば誰だって原子レーザーを思いつくけど…

 BECが実現できたら、原子物理学者がすぐにでも試してみたいと考えていたものに、「原子レーザー」というものがありました。1950年代に発明された光学レーザーは、これまで研究や情報通信にどれほど大きな貢献をしてきたか計り知れないところがありますが、それと同じくらいのインパクトをこの原子レーザーに期待していたからです。

 原子レーザーを簡単に説明すれば、光子を使っている光学レーザーのかわりに、原子を使おうというものです。いまいちイメージが湧きにくいかもしれませんが、光学レーザーの仕組みと対比して考えれば、その着想はとても自然だということがわかります。


 まず根本的なところで、特定の原子と光子が、粒子としてのある性質で共通していることが挙げられます。

 実は、光子、電子、陽子、中性子、そしてそれらの粒子からなる原子などのすべての粒子は、スピンの数といううわべの基準だけで、「ボゾン(ボーズ粒子、boson)」と「フェルミオン(フェルミ粒子、fermion)」という二つのグループに分類することができるのです。ちょうど血液型だけで人間の性格を判断しようとするアレと似ていてジョーキングな話ですが、この粒子の分類では見事に二つの異なった性格に割れてしまうのだから驚きです。

 具体的には0でないスピン(3h/4π、5h/4πなどh/4πの奇数倍)をもつ粒子はフェルミオンで電子や陽子、中性子にあたり、0スピン(h/2π、h/πなどh/4πの偶数倍)をもつ粒子はボゾンで光子にあたります。(スピンの背景には標準モデルのクオークやニュートリノといったものがあるのですが、その内容は今回はパスします。)フェルミオンの組み合わせである原子は、フェルミオンの合計の数が偶数ならボゾン、奇数ならフェルミオンと分類できます。例えばリチウム6(陽3中3電3)はフェルミオンであるのに対し、リチウム7(陽3中4電3)はボゾンです。実際にBECに使われるのは、ボゾンのアルカリ金属が中心です。

 なんとも恐ろしく形式的な分類に聞こえますが、ボゾンなら「社交的」な性格で、フェルミオンなら「排他的」な性格と分かれるのです。室温ではこの性格の違いはほとんど現れてきませんが、超低温の世界になると違いが見えてくるのです。「社交的」なボゾンは同じ量子的な状態を複数のボゾンで共有することができる(コヒーレント)のに対し、「排他的」なフェルミオンは同じ量子的な状態を他のフェルミオンと共有することはありません。

 こういうわけで、ボゾンである粒子と原子の半分は、ともにコヒーレントな状態になり、光子とともにレーザーに向いているというわけです。


 技術的な話としては、光学レーザーはレンズや鏡、ビームスプリッターなどを利用して光子をトラップしておくことができます。原子レーザーの場合も、先ほど話した磁場を使えば、光学レーザー同様に原子をトラップすることは可能です。
 (光学レーザーと原子レーザーのアナロジーのモデル図)

拡大図&説明を見る

光学レーザーと原子レーザーのアナロジー


 ただ、これまで原子レーザーに欠けていたのは、光学レーザーのように、強くて方向性をもちコヒーレントな原子ビームの供給源でした。しかしBECは、このすべての性質を兼ね備えています。

 だからBECが実現できるようになれば、原子レーザーをつくりたい人なら誰だってこれを利用しようと思いつくわけです。ただ、発想こそ簡単ですが、技術的にはそう簡単なものではありませんでした。これも光学レーザーの仕組みと比較することではっきりします。

 先ほどもいったように、原子をトラップする部分には問題はないのですが、そこからコヒーレントな状態の原子を取り出す方法が必要になります。従来のレーザーの場合は、外部から原子に光を与えて、原子から一定の光子を取り出します。そのとき他の方向の光子は取り除かれるので、鏡の向かい合っている軸に垂直な光子だけが残り、鏡に反射されてコヒーレントな状態になります。そして光子をトラップしておいた二枚の鏡のうち片方が部分的に光を透過するため、そこから光子ビームを取り出すことができます。

 原子レーザーの場合は、蒸発冷却でやったように原子をBECの外へ弾き出してしまうと、その原子のエネルギーは変わってしまい、もはやBECとコヒーレントな状態にありません。そのため、コヒーレントな状態でBECのなかの原子を外に取り出すには、「トンネル効果」によって取り出すしかありません。現在さまざまな方法で、これが試みられているのですが、取り出した原子ビームの寿命やとどく距離などが短いという点が課題となっているのです。


 原子の中には電子より物質波が短いものがあるので、この原子レーザーが実現すれば、今の電子顕微鏡よりも精度よい顕微鏡が可能になります。また、同様に、ナノリソグラフィーなどの分野でも役立つでしょう。現在、研究が進んでいるナノテクノロジーの分野とうまく融合していけば、計り知れない貢献をすることになるのでしょう。





超低温でのもうひとつの奇妙な状態

 さて、これまでは、ほとんど「社交的」な性格のボゾンを中心に話を進めてきました。もちろん、このボゾンのBECについてでさえまだ分からないことばかりなのですが、その一方で、「排他的」な性格のフェルミオンを絶対零度に近づけてどんな現象が起こるか確かめようとしている物理学者もいるのです。

 このフェルミオンは、例えば電子の排他原理というものが有名なように、2つ以上で同じ量子状態を共有することはできません。そのため、今まで紹介してきたボゾンを凝縮する方法をそのまま当てはめることはできません。ボゾンのときより、冷却は難しいと考えられています。

 まだ現時点では、ボゾンがBECになるように、フェルミオンがどんな状態になるかは分かっていません。ただし、これまでに知られているいくつかの現象から逆算することで、ある程度予測することができます。

 例えば、電子もフェルミオンのひとつですが、電子は超伝導のときに「クーパー対」というペアをつくって金属結晶格子のなかを動いていく現象がよく知られています。この他にも、フェルミオンには似た現象があります。液体ヘリウム3(陽2中1電2)はフェルミオンですが、これも超流動を示すときに、ある種のペアをつくっていると考えられています。(この辺りの内容は96年のノーベル物理賞の対象となりました。)

 つまりこのあたりの現象から予測すると、フェルミオンの場合も、ボゾンをBEC状態にしたように、超低温にまで冷やしていけば、何かしらのペアをつくるのではないかというわけです。

 このフェルミオンの凝縮状態が実現すれば、まだはっきりとは分かっていない超伝導の原理を根本から理解することにつながるでしょう。この超伝導の原理が分かっただけですぐに室温超伝導が実現するものではないでしょうが、おそらく室温超伝導レースには大きく貢献することになるでしょう。

 超流動の場合は、なかなか使い道が見つからないため、これを直接使って何かを発明することは難しいかもしれませんが、やはり超伝導などの理解に役立つことは間違いないでしょう。

 いずれにせよ、まだボゾンのBECに対応する、フェルミオンの凝縮状態が何かはまだ分かりませんが、BECに劣らない奇妙な状態にあることは間違いないのでしょう。






研究室と宇宙をつなぐBEC

 さて、もう一つBECに関して面白い研究内容を紹介しておきましょう。

 BECという状態は、あまりにも極端なもので、いくつかの研究室をのぞいて宇宙のどこにも存在していません。もしそうだとすると、こんな変り種から、宇宙の一般的な現象を説明することは無理でしょうか?

 実はそうとも限りません。このBECには、宇宙でもっともドラマチックな現象であるブラックホールや超新星といったものと密接な関係があると考えられているのです。もちろん厳密に同じというわけではありませんが、これまで光の性質を知るために、水の波、音の波動とアナロジーを進めてきたように、このBECもブラックホールや超新星のアナロジーとして役立つはずだと考えられています。


 ご存知のようにブラックホールは光さえも抜け出すことができません。同じように、BECもある条件と操作次第では、光も抜け出すことができなくなるのです。

 実は2000年の暮れに、光を完全に「止め」、再び「放つ」ことができたという報告がされ、非常に話題になりました。光が止まったとか、遅くなったということを聞くと、なんだか変に聞こえるかもしれません。おそらく「光速度一定の法則」が頭にあるためでしょうが、これはあくまで真空中を光が進む速度が一定ということで、水やダイヤモンドの中では光の速度は遅くなるのです。そして屈折という目に見える現象であらわれます。しかし、どんな媒体を探しても、光の速度を0にしてしまうものは、ブラックホールとBEC以外にはないでしょう。

 ただ、BECとブラックホールにアナロジーが成り立っているとするならば、「渦」の存在が欠かせなくなります。ブラックホールは光の速度より渦のほうが速くまわっているために、光が抜け出せなくなるのです。しかし同様にBECにも渦が成り立っていると考えるとおかしなことになります。BECは超低温で、全体で一つの原子として振舞っているはずなので、その内部で渦が巻いていることは考えにくいわけです。また、吸い込まれたものがどこへ行くかという素直な疑問も湧きます。

 まだまだ、説明の方が追いついていない状況ですが、BECとブラックホールの研究は量子論を深めるのに大きく貢献するでしょう。


 そして、まったく忙しい話ですが、2000年がBECブラックホール発見の年なら、2001年はBEC超新星発見の年といえるのです。これは米ライス大の研究チームが発見した現象でした。

 一般に100個以上の原子からなるBECは、不安定でそれを保つのが非常に難しいのですが、この研究チームはルビジウム85原子を、一度に何万個という単位の原子を急激に凝縮したのです。すると、その凝縮は外側にある原子を吹き飛ばして「爆発」し、あとにはBECになり損ないの塊が残っていたのです。

 ここで面白いのは、この爆発のエネルギーの違いによって、残される原子の塊のサイズは変化するのに対し、吹き飛ばされる外側の原子の数は変わらないということです。これでは数の勘定が合いません。

 この現象は、超新星(supernova)とボーズ凝縮(Bose)からとって、「ボースノヴァ("Bosenova")」と物理学者のあいだで呼ばれています。どうして、こういう現象がおこるのかは、まだほとんどわかっていない状況ですが、超新星との関係を期待している専門家も少なくはありません。

 今回は、BECについてさまざまな話題を取り上げましたが、それでも他に面白いことは多くありますし、まったく予期できなかったボースノヴァのような発見があるかもしれません。

 このBECは、かなり極端な低温状態でしか存在できないにしても、決して愉快な見世物小屋にとどまることはありません。原子レーザーなどの実現はナノテクノロジーや情報通信の分野にも大きな影響を与えるでしょうし、BECの研究は量子物理の理解を深めるのに大きく役立つはずです。BECの研究が実際に始まったのは、95年と、その歴史は非常に新しいですが、すでにこれほど大きく魅力のある物理分野に発展していったのです。



関連コラム
以前の気になる科学ニュース調査から、関連のあるものを選んでみました。


「そして光は止まった」
 BECとブラックホールの関係で本文に登場した、光が「止まった」という報告についての話。これが、このメルマガの創刊号の記事。あのころと比べると、書くのにもだいぶ慣れたなあ。妙に懐かしい。


■関連サイト
今回の関連サイトはかなり面白い読み物ばかり。
●オススメの記事

Bose-Einstein condensation - PhysicsWeb(英語)
BECについて一通りカバー。

Tabletop astrophysics - Nature(英語)
BECとブラックホールに超新星。かなり面白い記事。会員登録なしで読めるのでぜひどうぞ。

Frozen Light - Scientific American(英語)
光が止まったっていう報告についての記事。ブラックホールとの関連も。

After Bosons, Physicists Tame the Rest of the Particle Kingdom - Science(英語)
フェルミオンの凝縮状態について。(会員でないと読めない。)

●今回は、参照ページが多いので、ざっと適当に並べておきます。

Atom lasers - PhysicsWeb(英語)
原子レーザーについて。詳細。トンネル効果で取り出すさまざまな方法など。

"Science" celebrate the 2001 Nobel Physics Laureate
ScienceのBEC特集。

量子エレクトロニクスの変遷 霜田光一 - 日本物理学会
原子レーザーを使ったホログラフィーを提唱した霜田光一氏がBCEについて書いたもの。

The power of spin - PhysicsWeb(英語)
フェルミオン、ボゾンなどの定義などについて。

Ultracold fermion race is on - PhysicsWeb(英語)
フェルミオンもBECと同じく研究が始まった当初の記事。

2.4 Distribution functions - Colorado U(英語)
ボルツマン分布、フェルミオンのフェルミ・ディラック分布、ボゾンのボーズ・アインシュタイン分布などについて。本文で書けなかったのでチェックすることをオススメ。エクセルファイルで、自分で数字を代入して、確かめてみよう。

Additional background material on the Nobel Prize in Physics 1996 - Nobel e-museum(英語)
低温物理に貢献した面々に与えられた96年の物理ノーベル賞。本文とは、超流動や超伝導の「対」で関係している。

Information for the Public The 2001 Nobel Prize in Physics (英語)
けっこう分かりやすい。今年の物理ノーベル賞プレスリリースとその科学的背景。

Physicists Create New State Of Matter At Record Low Temperature - JILA(英語)

Alkali Quantum Gases @ MIT(英語)
貴重な写真がたくさん。

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