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竹馬、酔っ払いは二足歩行ロボットへのヒント
最終更新日;2001年8月4日


---竹馬に乗ったとき、そして酔っ払ったときは、立ち止まらずに歩いた方が安定性を保つことができるという経験をしたことがありますよね。人が歩けるのは筋肉と神経の情報伝達がしっかりしているためで、ロボットに真似できないような芸当だと考えられることが多いのですが、一方で重力といったもっと基礎的な物理法則だけで説明できるような歩行と言うものがあるのも確かです。この歩行について研究するには大きな意味があります。---


この記事では
   酔っ払いは二足ロボットのヒント
   パッシブウォーキングの重要性
   ティンカートイのもたらす影響
     という内容で構成しています。
 
酔っ払いは二足ロボットのヒント

 たまには異常な状況を仮定して、話を始めてみるのも面白いかもしれません。あなたがひどく酔っ払っている状況を考えてみましょう。ただ、幸いにも、まっすぐ歩くことはできるようです。まっすぐ歩いているときは、自分が酔っているということをあまり意識することはないのですが、駅について切符を買おうと立ち止まったとき、思いのほか、足元がふらつくことに気づきます。そこで、改めて酔いがまわっていることを知るのです。

 しかし、なぜ、歩いているときは酔いを意識することがなかったのに、立ち止まった途端に足元がふらつくのでしょう?

 その理由は、立っているときと歩いているときの安定性の違いにあると考えられます。立ち止まって静止しているときは、不安定で倒れてしまいそうな酔っ払いのあなたも、なぜか歩いているときには安定性を保つことができるのです。

 竹馬などにもこれと同じことを見出すことができるでしょう。竹馬に乗ったことがある方なら誰でも経験したことがあるでしょうが、この場合、静止しているよりも、むしろ動いていた方が倒れることなくバランスを保つことができます。しかし、なぜでしょう?

 普段なんとも思っていない「歩く」という動作には、少し深入りしてみると簡単には答えられそうにない疑問がいくつも湧いてくるものです。

 例えば、歩くスピードを徐々に上げていくと、「はや歩き」となり、いずれ「走る」という動作に変わりますが、その過渡期はどのあたりになるのでしょうか?山登りなどをしていると、疲れやすい歩き方とそうでない歩き方がハッキリとしてきますが、なぜそのような違いが生まれてくるのでしょうか?なぜ動物たちは、さまざまな速度で歩くことができるのに、普段は一定の速度で歩く傾向があるのでしょうか?

 それぞれの疑問は、日常的な非常に些細なものに思えますが、こういった疑問の中には、科学的に答えようとすると難しく、奥の深いものがいくつもあります。

 実は、先ほどの酔っ払いと竹馬との共通点の考察は、動物の歩きというものを研究する上でも、また二足ロボットを研究開発していくときにも大きな貢献をすることになります。そこで今回は、この二足ロボットとは程遠そうな酔っ払いや竹馬の話の背景にどんなことが隠されているのかのぞいてみましょう。



パッシブウォーキングの重要性

 一般に歩くということは、視覚や平衡感覚などから入ってきたさまざまな情報を脳で処理し、そのフィードバックが神経をたどって筋肉などに伝えられるような複雑な仕組みだと考えられています。これが、二足歩行ロボットの難しいところだとも言えるでしょう。

 もちろんこれ自体は間違っていないのですが、歩くという動作のなかには、脳神経や筋肉などの複雑な仕組みを必要としないものもあるのではないでしょうか?単に、重力や地面との接触といった基本的な物理法則だけで説明できる歩きというものもあるはずです。

 例えば、緩やかな坂をトコトコと歩いていく子供のおもちゃがあります。おもちゃだからといって、そう馬鹿にできたものではなく、同じ原理で少し丁寧に作りこんでみると、人の歩行とまったくそっくりの動きをするモデルロボットをつくることができるのです。(ビックリなムービー 498kb)
http://tam.cornell.edu/~ruina/hplab/downloads/movies/KNEED1MV.MOV

 しかも、このモデルにはモーターなどの原動力もなければ複雑な制御系もありません(膝が反対に折れ曲がらないようにストッパーがついていますが。)ところが、これだけ美しい歩行ができながら、少しでも静止しようものなら、すぐに倒れてしまうのです。

 こういった歩行のことを「パッシブウォーキング(受動歩行、passive (dynamic) walk)と言います。結局のところ、酔っ払いの場合は、脳神経や筋肉がいくらか鈍くなって、いつものような複雑な歩行をしておらず、パッシブウォーキングと似たところがあるのでしょう。そのため歩いているときは安定でも、立ち止まったら足元がふらつくのでしょう。また竹馬の場合でも、乗っている人は複雑にバランスを保って運動しているのですが、竹馬に脳神経の複雑な信号を伝えることはできません。こちらもパッシブウォーキングに似た要素が含まれているのでしょう。

 実はこのパッシブウォーキングに関する研究は、日本や世界のあちこちで行われています。もちろんロボットへの応用のためだけではなく、厳密には誰も知らない動物の歩行のメカニズムを詳しく理解するためにも重要なのです。

 つまり複雑な動物の歩行にある根本的な原理を知るためには、いったん筋肉も脳も上半身も取り外してしまったパッシブウォーキングロボットを研究することが有効ではないかというのです。こうすることが、脳神経と筋肉の複雑な関係を深く理解することにも繋がるかもしれません。やや遠回りに思えるかもしれませんが、このことがロボットのプログラムにも、のちのち貢献することになるでしょう。

 また動物の歩行のエネルギー的効率に関して、代謝によるものと物理的によるものとの間にどのような関係があるかといったことも非常に興味深いところです。

 もともとグライダー専門の研究者だったタッド・マックギア(Tad McGeer)が、1990年にはじめてこのタイプのロボットを思いついたのには訳がありました。はじめはペ−パーグライダーのような素朴なものから研究をはじめ、今の複雑なジェット飛行機が存在しているわけですが、これと同じようなアプローチで二足ロボットの研究はできないかと考えたためなのです。



ティンカートイのもたらす影響

 では、実際にこのパッシブウォーキングの研究はどうなっているのでしょう。実は、この研究は私たちが思っている以上に難しいようです。このモデルロボットの動きをさまざまな関数を使って調べているのですが、最終的にはその背後にある方程式を導き出すことが重要なことのひとつと言えるでしょう。

 ところで、この研究のモデルロボットは二次元のものと三次元のものに分けることができます。いずれの場合も横揺れが厄介になってくるのですが、横揺れを抑えるために、松葉杖のようなはたらきをする足を増やして3本足にしたり、バーなどで体を支えたりしたりするものを二次元のものとしています。二次元的な意味では二足歩行というわけです。そして、まったく二本の足だけで動くものを三次元と呼んでいます。

 それで以前までは二次元的なものの研究が中心だったのですが、最近になって三次元のものも研究されるようになってきました。

 とくに最近では、ヘンテコなおもちゃのティンカートイを使って、三次元のモデルの運動の方程式も導き出したと報告されました。(ティンカートイの拡大図(221k))
http://www.news.cornell.edu/photos/tinkertoy300.GIF

 はじめのうちはコンピュータのシミュレーションの方が実際の動きよりも単純すぎて、このパッシブウォーキングを正しく理解することができませんでした。しかしついに、シミュレーションの結果が実際の動きと一致したのです。これによって、このモデルロボットが本当に歩行によって安定性をえているということがハッキリしたのです。

 まるで子供だましなおもちゃのようで、歩き方もトコトコとみすぼらしくさえ見えるこのロボットですが、このティンカートイから得られたことの重要さは、のちのち、動物の歩行メカニズムの解明やや二足ロボット開発などではっきりと分かってくるのでしょう。





最終更新日;2001年8月4日 作成:辻野貴志
関連コラム
以前書いた「気になる科学ニュース調査」で関連のあるものを紹介します。

「飛べないといわれた昆虫のロボット・ショック」
今回のコラムは「パッシブウォーキング」という視点からロボットを見たのですが、こちらの話では、飛行機や鳥とは違った飛び方をする昆虫の視点からロボットを見ています。結構読者の評判のよいコラム。

関連サイト
今回の関連サイトは面白いものが多いです。いくつかロボットのムービーでも眺めてみては。

Passive Dynamic Walking - コーネル大(英語)
 いろいろとパッシブウォーキングをするモデルロボットのムービーや写真がたくさんあります。ページの下の方に2,30個ほどごろごろと転がっています。ティンカートイはここの研究所。

Passive Walking - ミシガン大(英語)
 ここでは3次元のパッシブウォーキングロボットをつくっているようです。

Passive Dynamic Walking - バークレー大(英語)
 動物の歩行のメカニズムを解明することを目的にパッシブウォーキングを研究しているようです。

梶田 秀司さんのホームページ
 二足歩行ロボット全般についていろいろ書かれています。確かこの人は、森山さんのNetScience Interview Mailのロボットの話でも登場していたな。4年も前でちょっと古いのですが、この文章でちらりとパッシブウォーキングのことを触れています。↓
 http://robby.caltech.edu/~kajita/myhonda.htm

自励駆動形2足歩行機構の研究紹介ページ - 東工大

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