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シマウマの縞模様はどこからやってくる?

シマウマの縞模様やキリンの斑点はいったいどこからやってくるのでしょうか?自然界にはさまざまな模様があふれていますが、これを遺伝子だけで説明することはできないでしょう。遺伝子では、次に生まれてくるネコがシマかブチかを知る程度で、どのような模様になるかまではわかりません。実はこういった模様は周期性をもった化学反応の現れなのです。

この記事では
 どこからともなく浮かび上がる視覚的なリズム
 世界が底の方へ転げ落ちないための途中の障害物
 試験管の中の「ライフゲーム」
 動物の毛皮に現れる化学振動
 非生物系にもあふれるリズム
 カオスへの崩壊
     という内容で構成しています。
 
どこからともなく浮かび上がる視覚的なリズム


さまざまな動物の縞模様や斑点は単に遺伝子だけで説明できるものでしょうか?いいえ、他にも重要な要素があるのです。
 動物園に行ってみると、縞なり斑点なり、独特のリズムをもった模様の動物が多いのに気づきます。シマウマの縞模様、クジャクの羽の模様、それにキリンの斑点など、自然界にはさまざまな模様があふれていますが、あれはいったいどこからやってくるのでしょうか?最近は遺伝子で何でもかんでも説明できそうな雰囲気があるので、遺伝子かなと思ってみたりもしますが、遺伝子ではなんとなく説明が難しそうです。

 といのも、生まれてくるネコがシマ柄かブチ柄か、そういった質問なら遺伝子でそれなりの答えを導くことができるでしょう。ただ、縞模様がどのくらいの間隔であらわれるかとか、ブチがどんな分布の仕方をするかとかいったことになると、遺伝子だけではとても説明できそうにありません。

 少し意外な気がしますが、実はこういった模様は、周期振動を持つ化学反応の現れとして説明できるのです。

 そこで今回は、試験管の中の単純な化学反応から話をはじめて、もっと複雑な自然の現象、例えば動物の模様などをどう説明できるか考えてみましょう。





世界が底の方へ転げ落ちないための途中の障害物

 例えば「A+B→C+D」というように、何が何へ変わるかを示す化学反応式がありますが、実際の自然界ではこのように反応が完全に進行する場合はまれで、その宙ぶらりんのところにぶら下がっている場合の方がはるかに多いといえます。



紙が勝手に燃えて水と二酸化炭素にならないのは、途中に障害物があるからなのです。
 例えば、炭化水素でできている木は、炭化水素として存在しているよりも、燃えてしまって水と二酸化炭素で存在してしまった方がエネルギー的には安定しています。いったん木に火がつけば、あとは化学的な宿命にしたがって反応が進行するだけです。だから世界中の森林、そしてほとんどの生物が常に火災の危機に瀕しているにもかかわらず、ひとりでに水と二酸化炭素に変化してカオスの世界に転げ落ちてしまわないのは、反応の途中に進行を妨げる障害物があるからです。この障害物を「活性化エネルギー」と呼ぶことがありますが、その本質は、原子が新しい結合をつくるために、いったん古い結合をちぎらなくてはならず、大きなエネルギーが必要だというところにあります。もしこの障害物がなければ、今ごろ地球はどろどろとした生温かい液体のままだったでしょう。それ以前に、星が誕生することがなかったかもしれません。

 なぜこのような話をするかというと、動物の模様を説明をするために登場してくる化学変化のほとんどが、何に変わるかとう結果よりも、反応途中の過程やその反応速度の方が重要になってくるからです。そのことを頭に入れながら、周期性を持つ化学変化がどういうものかということに話を移していくことにしましょう。



試験管の中の「ライフゲーム」

 全体として一つに見える反応(反応機構)の中には、さまざまなステップ(素反応)が含まれていて、長い間どこか途中のステップの状態にあるということもあります。そのなかに「自触媒反応」というステップが含まれていると、全体としてその反応は空間的、時間的に濃度が振動するという風変わりな現象がおこします。

 自触媒反応というのはその名のとおり、自分が触媒に変化する反応です。
   A+P→P+P
 触媒というものは自らが変化せずに、反応の速度を高める役割をしているので、この反応では触媒が増えていくので反応速度がどんどん速くなってきます。

 この触媒反応が反応機構のなかに複数含まれていると、化学的な振動を目で見ることができるのです。(ムービー。二種類の化学振動。上は渦として現れる振動、下は濃度が振動するので色が時間によって振動するように見える。↓)
 http://online.redwoods.cc.ca.us/instruct/darnold/DEProj/Sp98/Gabe/exp.htm
 http://online.redwoods.cc.ca.us/instruct/darnold/DEProj/Sp98/Gabe/intro.htm

 とくに上の周期的に渦が生じる反応は、発見者たちの名前からとって「ベロウソフ・ジャボチンスキ反応(BZ反応)」と呼ばれています。ただ、考えてみると、振り子や月の満ち欠けなど、物理的な現象なら周期的なものはたくさんありますが、化学反応で周期的なものにはあまり馴染みがありません。実際、50年前に、この反応が提案されたときは、ほとんどの科学者が懐疑の目で見ていたのです。しかし、実際は化学振動の影響はさまざまなところに現れているのです。

 そこで、この反応機構がどのような仕組みになっているかを少し詳しく考えてみましょう。ちょっとしたパズルなので、頭を柔らかくしてみてください。(BZ反応は非常にたくさんのステップを含んでいるので、次のモデルは化学振動に関わるステップだけを抜き出したもの。)

1. A+X→X+X
2. X+Y→Y+Y
3. Y→B
(Aは一定割合で供給される、Bは一定の濃度に保たれ残りは排出される)

 ステップ1と2が自触媒反応です。確かに、1,2,3すべてを合わせて考えれば、AがBになるというだけのつまらない反応ですが、振動が生じてくる理由は、その結果よりも、途中の1と2の自触媒反応の方にあるのです。



XとYの濃度は時間の変化に伴って振動します。
 まず、自触媒反応の特徴にしたがって、ステップ1でXは爆発的に増加します。ところが、Xが増加すると、ステップ2が起こるチャンスが高くなります。そのため、Xの増加に少し遅れて、Yが爆発的に増加します。しかし、これによってYがXを大量に使用するのでXの量が減少しステップ1の反応速度が遅くなります。そのためステップ2の反応速度も遅くなり、Yが減少します。今度はYが減ったために、Xは消費されることなく再び怒涛のように増加するチャンスがあるといったように、XとYの周期的な濃度変化の追いかけっこが続くのです。(実際にグラフを描くには、反応機構から微分方程式を立てて数値的に解を求める。)



 なかなかX,Yといった抽象的な文字ではイメージが沸きにくいかもしれませんが、ちょうどこれは「ライフゲーム」の発想と同じです。つまり、Xをウサギ、Yをキツネとみなせばイメージがわきやすくなります。「ウサギの増加によって、キツネはえさに困らず、急増することができる。しかし、キツネがウサギを食べ過ぎると、今度はキツネのエサがなくなり、キツネも多くは生存できない。そして天敵のキツネが少なくなればウサギは増殖するチャンスが増える・・・。」という具合です。ライフゲーム以外にも、電気回路のフィードバック現象と似ているところもあります。これが化学振動の背後にある概念です。

 もし反応溶液が撹拌されて均一に保たれていれば、全体として濃度が変化して、色が周期的に変わるといった現象になります(ムービーの2つ目)。逆に、撹拌されておらず不均一な反応溶液ならば、BZ反応のように濃度差が空間的に現れて、渦巻いているように見えるわけです。詳しくは述べませんが、BZ反応の渦模様がどのように広がっていくかを知るためには、「拡散」の概念も重要になってきます。

 とにかく、化学振動を見るためには、反応が平衡からかけ離れていて宙ぶらりんの状態にあるということ、二つの定常状態(上の場合はXとY)が競い合っているということ(二価安定性)、そして自触媒反応が含まれているという3つの条件が必要になるのです。



動物の毛皮に現れる化学振動

 さて、それでは試験管の中の話から、いよいよ実際に動物の皮膚や毛皮の模様にうつっていきましょう。

 動物の毛皮などに現れる模様は、胚の段階で生じてくると考えられているのですが、一般に動物の皮膚は撹拌されていない不均一な溶媒とみなすことができます。したがって、不均一な反応溶液で起こるBZ反応のように、化学物質に濃度差が生じ、拡散していきます。

 もちろん濃度差があっても、私たちの目に見えるように色がついていなければ模様にはならないので、拡散していく物質は何かしら色に関係したものでなくてはいけません。まだこの化学物質というのがどういうものかはっきりしないのですが、おそらく色素の機能をコントロールする化学物質だと考えられています。これが縞模様を描きながら拡散していくことで、シマウマの縞模様やキリンの斑点が現れるのだと考えられています。

 実際にこのモデルをコンピュータでシミュレーションしたところ、自然界に存在している模様と似た傾向をもつことがわかっています。

 なお模様の話とは少しずれますが、こういった化学振動は、心臓の鼓動のリズムの源にもなっているということが最近では認められています。解糖系でグルコース1分子をATP2分子に変える一連の反応のなかで、こういった化学振動が生じていると考えられています。そのリズムが振動の鼓動に使われているのです。細胞も一つの化学反応器として、原理的には試験管の中の反応と同じように働いているというのだから驚きです。



非生物系にもあふれるリズム

 自然界には生物以外にも、さまざまな模様があふれています。例えば、時間と場所が違えば決して同じ形はないといわれる雪の結晶、金属に複雑怪奇に枝分かれして広がっていく錆(さび)、バクテリアが増殖して広がっていくときのコロニーの形などがあります。

 ただし、先ほどの動物の例とまったく同じというわけには生きません。例えば、雪の結晶の場合は、それほど際立った化学反応が起こっているわけでもなく、化学振動というものは存在していないはずです。しかし、やはり雪の結晶の場合でも、平衡からかけ離れているということや二価安定性という点では動物の模様と共通するところがあるのです。例えば、水滴が拡散して結晶の芯にくっつくことで安定化しようとする傾向と、結晶表面で固体と蒸気の間で起こっている物理学的な相互作用で安定化しようとする傾向は、XとYのように競い合います。こうして二つの状態を行き来しながら、雪のような結晶ができるのだと考えられています。あまり詳しくは話せませんが、バクテリアのコロニーの場合でも、バクテリア自身の成長と全体的なコロニーの広がり方との間で相互作用があるのだと考えられています。

 二価安定性というのは生物でも非生物でも共通していて、やはり非生物に関してもパターン形成の研究が行われています。



カオスへの崩壊

 これまでいろいろとモデル的な話をしてきましたが、では、これで次に生まれてくるシマウマの縞模様やキリンの斑点を完全に予測することは可能なのでしょうか?やはり、それほど簡単には生きません。

 というのも、これまでは話をわかりやすくするために、二つの定常状態しかない、つまり二価安定性を前提として話を進めてきましたが、実際は、3、4つ、それ以上の定常状態が存在しているのです。




倍周期になっていくうちに、周期性がぼんやりしてきて、最終的にはカオスに落ち込みます。
 ふたたびライフゲームの話を考えますが、仮にウサギとキツネだけという二価安定性ならば、規則正しい周期振動を繰り返します。しかし、そこにタカというもう一つの動物をいれると三価安定性になります。こうなると、今までのようなウサギとキツネの数の規則正しい周期振動は崩れはじめ、だんだんとぼやけた周期になり、いずれ二度と同じ振動を繰り返すことがなくなります。このようにカオスに落ち込むことがほとんどです。


 太平洋に存在するカツオの量は、カオス的な振動をして、まったく同じ周期になることは考えられませんし、世界の経済の上下の理由も、似たような手法で説明されています

 動物の皮膚や毛皮の上は、太平洋ほど複雑でないにしても、BZ反応よりははるかに複雑だといわざるをえないでしょう。

 また、心臓発作も、恐らく化学振動による鼓動のリズムがカオス的になることで、それに続くさまざまな反応や機能に大きな影響を与えることが原因だと考えられるになってきました。

 ただし、カオス的で複雑だといっても、その背後にある反応機構というのは、それなりにわかっているのです。むしろ、縞模様や斑点、それに心臓発作が完全に予測することができない理由は、カオス(決定論的カオス)が初期条件に非常に敏感だという性質を持っているからなのです。今の私たちには、リアルタイムで初期条件を厳密に知る手段がないのです。結局、方程式を立てられていても、解を求めることができません。しかし、解が求まらないながらも、カオスの背後にある反応機構がわかってきたことは、これまでの研究の非常に大きな成果といえるのでしょう。



       
関連サイト
今回の関連サイトは、記事本文でほとんど触れていないモデルについてもしっかり紹介しておきますので、興味の沸いた方はさらに覗いてみてはどうでしょうか?心臓発作、鉱石の模様、ガンの広がりなど、何かしら皆さんの興味のある分野の内容が見つかると思います。

●まずは本文の内容をさらに詳しく知りたい方のために。


Pattern of life - nature science update(英語)

The artistry of nature - nature(英語)
 本文中で少し触れた雪の結晶などの非生物系の話。

The Belousov-Zhabotinsky Reaction(英語)
 ベルゾーフ・ザボンチンスキ反応についての総合的な紹介サイト。

B.P.Belousov: the way to the discovery(英語)
 化学振動現象をはじめて発見したベルゾーフとはどういったひとだったのでしょうか?

Diffusion Limited Crystal Growth(英語)
 本文で端折りまくった雪の結晶のでき方について。他のページには雪のきれいな結晶の写真などもあり。相当すごいサイト。

BZ反応とライフゲーム(英語)


●本文では紹介できませんでしたが、関係のある内容を取り扱ったものについて。どれも数学的モデルの研究対象になっています。

The heart, and the Belousov-Zhabotinsky (BZ) reaction(英語)
 心臓発作は、電気的な信号が心筋の組織にBZ反応のように渦を描きならが広がっていくときに起こると考えられているようです。

Nonlinearity in the heart(英語) - PhysicsWeb
 同じく心臓発作について。詳しい。

リーセーガン・リング(Liesegang rings)(英語)
 これも波模様。主に鉱石の模様や、ガンの広まり方と関係があるとして研究されているよう。

Rayleigh-Benard Convection Cells (英語)
になる_科学ニュース

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