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気ニナる
銀河系の中心からウインクしたのは誰?やっぱりブラックホール


---以前から、他の銀河と同じように、銀河系中心にも大きなブラックホールがあると考えられていました。ところが直接見ることのできないブラックホールの存在を示すのは容易なことではありません。ところが、ブラックホールの境界である「事象の地平」ギリギリのところから、私たちに投げかけられたメッセージに注目して、その存在を示す有力な報告がされました。---


この記事では

 「無限」の端から投げかけられたウインク
 銀河系中心に潜む射手座のバケモノ
 "Point of No Return"

     という内容で構成しています。
 
「無限」の端から投げかけられたウインク


Image credit NASA/CXC/SAO
銀河系の中心の方向に存在する射手座(サジタリウス)には、前々から専門家を悩ますバケモノが住んでいました・・・


 「無限」という言葉は、なにやら異様な魅力を漂わせています。たとえそれが素粒子のような小さな世界にあろうと、宇宙のように大きな世界にあろうと、やはりその魅力がかわることはありません。

 まして、そんな世界の境界線ギリギリのところから私たちに投げかけられたメッセージなんて、聞いただけでもワクワクしてしまいます。


 今回取り上げるのはブラックホール、これにも「無限」という言葉が当てはまりそうです。ブラックホールは宇宙のあちこちに存在していますが、銀河の中心には必ずと言っていいほど、大きなブラックホールが存在していて、周りの天体をまわす原動力となっていると考えられています。そして、同じように私たちの銀河系中心にも、ブラックホールが存在しているのではないかと考えられてきました。

 ところが、ブラックホールの存在を示すとなると、そう簡単にはいきません。ある一線を越えてしまうと光すらも脱出できなくなってしまうような天体ですし、サイズも小さいので、直接見ることはできません。

 そこで、間接的に「見る」必要があります。例えば、ブラックホールがあると思われる銀河系中心付近の天体が回転する速度を調べて、中心にどれほどの質量をもった天体が存在しているか調べるといった具合です。

 今までこのような方法で、銀河系の中心に存在している天体が、ブラックホールかどうかということを示そうとしてきたのですが、それほど容易なことではありませんでした。

 ところがつい先日、ユニークで信頼性の高いデータを用いて、銀河系の中心がブラックホール以外に考えられないという報告がされたのです。その報告はブラックホールの境界線の付近で起こる、ある特有の現象に注目したものでした。

 いったい、ブラックホールの境界線で起こった現象とはどういったものだったのでしょうか?これまでブラックホールだと断定できなかった要素を、どうやってクリアしていったのでしょうか?今回は、ブラックホールの境界線ギリギリのところから私たちに投げかけられた、このメッセージについて考えてみることにしましょう。



銀河系中心に潜む射手座のバケモノ

 銀河系中心の方角には、射手座をかたちどる一連の星々を見ることができます。ところが1974年に、射手座の方向に、なんとも不気味な天体が発見されたのです。その天体は、射手座(サジタリウス)から名前を取ってサジタリウスA*とされたのですが、暗くて目に見えない一方で、常にX線などの電磁波を発しているのです。さらによく見ると、そのサジタリウスA*を中心として、まわりの星が回転していることも分かりました。つまり、サジタリウスA*こそが銀河系の中心だというわけです。

 そこで、そのまわりの星の速度を観測して計算したところ、そのサジタリウスA*の領域に存在している天体は、なんと太陽の質量の300万倍もあることが分かりました。さらに、ブラックホールのようなX線も発しています。どちらの観測もブラックホールの存在を示すための間接的な証拠に過ぎないのですが、多くの専門家も、おそらくサジタリウスA*にブラックホールが存在しているのだろうと考えてきました。

 もっとも、そんな専門家のあいだでも、腑に落ちない点がいくつか残っていました。このサジタリウスA*からのX線は、ブラックホールから発せられるものと考えると、やや弱いものだったのです。それに、このサジタリウスA*の領域というのが、具体的にどの程度の大きさなのかもハッキリしませんでした。ブラックホールの替わりに、輝きを失って暗くなった質量の大きい恒星などの天体が集まって存在しているという説明もできなくはありません。ブラックホール以外の可能性を否定しきれずにいたのです。

 そこで、そのモヤモヤを解消するために、数年前に、ブラックホールなどからのX線の観測に優れた衛星「チャンドラ」が打ち上げられました。

 そのチャンドラが観測をはじめてから二年ほどがたった2000年の10月に、非常に顕著な現象が見られました。わずか数分足らずで、サジタリウスA*からのX線の強度が普段の45倍ほどになり、それが普段の値に戻るまで約3時間ほどかかったのです。しかも、そのピーク時には、わずか10分の間にX線の強度が激しく変わるという現象も観測されました。(上の写真の下部)


 注目すべきことは、X線の強さ、そしてもう一つは、たった10分の間に起こった急激なX線の強度の変化についてでしょう。これらの観測データをまとめた報告が、最近Natureに掲載されました。これによって、銀河系のブラックホールの存在していることはほとんど確かなものになりました。

 とくに、後者が観測できたことは非常に重要な意味を持っていました。しかし、そのことを理解するためには、少しばかりブラックホールのことに付いて知る必要があるでしょう。



"Point of No Return"

 ブラックホールの境界はどこからかということを考えるとき、光も抜け出せなくなる一定の半径に注目します。そして、そこを「事象の地平(event horizon)」と呼びます。アインシュタインの相対性理論の表現を借りるなら、そこに踏み入れた物質は無限の密度をもつまで潰されていくということになり、まさに引き返しのできない"Point of No Return"ということになります。

 この線の内側で何が起こっているかを見ることはできませんので、このわずかに外側で起こっている現象を観察することが重要となってきます。

 例えば、ある恒星がブラックホールに引きよせられるとき、バラバラとなって、まるで排水口に水が流れていくときのように、ガスは徐々にそのまわりを回転し始め加速し、「降着円盤(accretion disk)」とよばれる円盤状になっていきます。とくにこの円盤が押しつぶされて事象の地平のギリギリのところまでに近づくと、ガスは位置エネルギーを他のかたちにかえて、X線などの強い電磁波を発するようになります。(降着円盤のイメージ。中心の黒いまるがブラックホールで、その周りのカラフルなモヤモヤが降着円盤です↓)
http://news.bbc.co.uk/hi/english/sci/tech/newsid_1526000/1526724.stm

 去年チャンドラが観測したX線も、まさにこの現象によるものでした。ブラックホール自体は目で見ることができませんが、他の星をむさぼり食べるときの行儀が悪いために何かと目立つので、逆に食事中に注目することがブラックホールの性質をつかむのに役立ちます。このときのX線を観測することはブラックホールの存在を知るうえでの有力な手段となっています。

 とくに今回注目すべきことは、X線の強度がわずかな時間で激しく変化したということです。実はこのような現象が起こるのは、ブラックホールか、非常に小さい中性子星などのときだけだと考えられているからです。

 X線の強度がわずかな時間で激しく変化するためには、降着円盤のさまざまな部分から放たれるX線どうしがお互いに影響しあう必要があります。そのためには10分というわずかな時間のあいだで、降着円盤から発せられたX線が、サジタリウスA*の領域分の距離をすすめることが条件となります。

 このとき、高温のためにX線の伝播速度が大きくなっていたとしても、光速を超えることはありません。たった10分で光が進める距離はわずか1.5億キロメートルにすぎず、X線ならそれより少なくてはなりません。しかもこの距離は太陽から地球までの距離程度にしかならないのです。

 したがって、サジタリウスA*と呼ばれる領域は、太陽から地球までの距離より狭いものとなります。そして、こんな狭いスペースに、先ほども述べたような太陽の質量の300万倍といわれる天体が収まっているのです。

 さて、このことを合理的に説明しようとすれば、どんな答えが残るでしょうか?そう多くの答えは残りません。相対性理論からも、この答えは「ブラックホール」しかありえないのです。銀河系の中心には確かにブラックホールが存在していたのです。

 ブラックホールという直接見ることができない天体も、まわりの星の動きや、事象の地平ギリギリのところで起こる現象などに注目して、間接証拠のピースを一つずつ詰めていけば、「見る」ことができるというわけです。

 これまでの天文学は直接見ることのできる天体ばかりを調べてきましたが、宇宙にはブラックホールや私たちの知らないような、直接見ることのできない天体のほうがずっと多いことが知られています。今回のような方法をつかって、今まで見えなかった部分を少しづつ明らかにしていくことが、これから宇宙の謎を解くのに重要となってくるのでしょう。


         
関連サイト
記事を書くのに参考にしたページをいくつかあげておきます。詳しく知りたい方はどうぞ。

Chandra Catches Milky Way Monster Snacking - ハーバード(英語)
 今回のチャンドラ宇宙望遠鏡の観測データについてのプレスリリース
 ちなみにこれまでの写真のギャラリーはこちら


銀河系の中心にブラックホールの証拠見つかる- CNN日本語版

Milky Way's central black hole located - Physics Web(英語)

What Happens Close to a Black Hole? - NASA(英語)
 ブラックホールも話し始めるとかなり複雑です。こちらのページを見れば、今回の出来事の背景となる知識が得られそうです。(ただし、ここで取り上げられているブラックホールは、サジタリウスA*のものではなく"Constellation-X "とよばれるもの)
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