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カオスから見た時間の矢―時間を逆にたどる自然現象はなぜ見られないか
/ 講談社ブルーバックス


自己組織化と進化の理論 宇宙を貫く複雑系の理論
/日本経済新聞社


自己組織化の経済学―経済秩序はいかに創発するか
/ 東洋経済新報社


セルオートマトン法―複雑系の自己組織化と超並列処理
/ 森北出版


     最終更新日:2002/12/9
 

  
1章:イントロダクション
 ナノテクの実現手段としての自己組織化
2章:自己組織化とは?
 様々な分野での自己組織化
 熱力学と自己組織化
3章:生体分子・細胞を真似する
 自ら組み上がる生体ナノマシーン
 機能をもった人工分子膜:LB膜とSAM
4章:相手を認識する分子
 鍵と鍵穴
 超分子化学の世界へ
5章:固体表面での自己形成
 表面張力による造形
 自己形成する量子ドット
6章:散逸構造と自己組織化
 アニマル柄とチューリング・パターン
 アニマル柄と量子ドット
7章:複雑系へ
 複雑系と自己組織化(Coming Soon)
 リンク集

 
■自己組織化&自己集合
 − 様々な分野での自己組織化


単細胞の大腸菌は精巧な分子機械である。
 日陰に置いておいた雪だるまもいずれ溶けて蒸発し、机から落としてしまったグラスは割れる。こういったシーンは日常の一こまとして、何も珍しいものではない。では、その逆は起こりうるだろうか?大気中の水分から自然に雪だるまができあがったり、粉々になったグラスが突然もとのかたちに戻る。そんなシーンは頭の中で想像するのもバカげている。私たちは直感的に、ランダムなものが自ら秩序だった構造を作り出すことはないと知っている。あるいは「エントロピーの増大」とか「時間の不可逆性」といった言葉を知っている人もいるかもしれない。


 ところがその一方で、私たちの直感と食い違ったり、一見するとエントロピー増大の法則に反しているとしか思えない現象も満ち溢れているのも事実だ。生命活動はまさにその好例だ。あれほど単純な受精卵が、いったいどのようにすれば胎児へと姿を変えていくことができるというのだろうか?ワトソンとクリックのDNA二重らせん構造の提唱以来、生物学は分子遺伝学などの後押しによって発展を遂げたが、未だにこういった根源的な疑問に答えることはできない。それどころか、生命の分子レベルでの研究が進めば進むほど、こういった疑問は深まるばかりだ。というのも、単純な生物と考えられてきた単細胞の大腸菌でさえ、現在の技術がとても及ばないような精巧な分子機械だと分かってきたからだ。これほど精巧な分子マシーンがどのようにしてで出来あがっていくのだろうか?



動物の美しいパターンの背後には共通した原理・数式が潜んでいることが分かってきた。
 もちろん、自然と秩序だった構造が出来上がってくるのは生物だけに限られた話ではない。純粋な物理化学の分野でも、こういった現象は珍しくない。糸の先にタネをつけ溶液に浸しておけば勝手に形成するミョウバンの結晶、多様なパターンを見せる雪の結晶、岩石に現れる模様…。

 こういった自己組織化の現象は、古くからそれぞれの分野で個別に少数の学者が注目してきたが、最近になってより体系的に研究されるようになってきた。例えば雪の結晶や岩石の模様、それにシマウマの縞模様や心臓の鼓動などバラバラに思えるいくつかの現象の背後には、共通した原理が潜んでいるらしいのだ。面白いことに、ビーカー中のある種の化学反応では、心臓の鼓動のリズムや動物の縞模様と非常に関係の深い現象が見られることがわかっている。これも自己組織化の背後にある原理に注目するようになって明らかになってきたことだ。

 さらに自己組織化の研究は、社会学・生物進化、経済学、コンピュータサイエンスなどさまざまな分野で広がりを見せ、いわゆる複雑系の科学として一大潮流になっている。例えば、これまでの生物進化にはダーウィンの自然淘汰がほとんど唯一の説明であったが、自己組織化によって見直そうとする流れがある。またコンピュータサイエンスでは、セルオートマトンやライフゲームによって生命の基本的なエッセンスが何か、人工生命は可能かといった思索が続いている。


 さて、上で述べたように自己組織化はかなりの広がりを持つようになってきている。しかし、ナノテクノロジーの実現手段としての自己組織化を考えた場合、足が中に浮いているのもどうかと思うので、ある程度、対象とする自己組織化の範囲を限定しておくほうが賢明だろう。そこで、このページ以降は、とくに物理化学的、分子生物学的な視点から自己組織化を眺めつつ、ナノテクノロジーとのつながりをさぐっていこう。



ナノテクの実現手段としての自己組織化 熱力学と自己組織化